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第7話 本当のことは言えない

「朝比奈先輩、どうしました?」 「あ、いや。ノンタンが初めて俺に笑ってくれたなーって思って」 「え!?」  そ、そうだっけ!?そういやオレ、さっきまでこの人のこと凄く怖かったのに、いつの間にか全然平気になってる。それどころか…… 「ノンタン、チューしていいか!?」 「えぇ!?」  朝比奈先輩は、至極真面目な顔でいきなりそんなことを言いだした。表情とセリフが一致してないんだけど!?何でいきなりキス!? 「なんか今無性にムラムラっと来てよぉ……な、チューだけだから!それ以上は何もしねぇから!今は!!」 「ちょ、ちょっと待ってください!」  朝比奈先輩はオレが逃げられないようにオレの両肩をガッチリと掴み、目を閉じて唇をうーってタコみたいに突き出して迫ってくる!さっきカッコイイって思ったの撤回!撤回する!! 「や、やめてください!」 「ええ?ノンタンは俺の彼女なんだからいいだろォ~?」  あ……  そうだオレ、まだ朝比奈先輩に自分が男だって伝えてない。  『彼女』ってことは、やっぱり朝比奈先輩はオレのことを女の子だと思ってるんだ……  言わなきゃ、本当のことを。  でも…… 「こんなとこにいやがったのか朝比奈ァ!!てめぇ俺の数学のノート返せ!つーか貸した覚えがねぇんだけど!?」 「!?」 「おっ写楽(シャラク)!悪ぃな~勝手に借りたわ」 「だろうな!」  突然オレたちの前に、朝比奈先輩と同じくらい長身だけどめちゃくちゃガラの悪いイケメンが現れた。誰、友達?の割にはめちゃくちゃキレてるな……。 「ノンタン、こいつは俺のダチの犬神写楽っつーんだ」 「ダチじゃねぇ、知人だ」 「そんで写楽、こっちはオレの彼女のノンタン!めちゃくちゃ可愛いだろー?」 「遊の方が可愛い」 「相変わらず目が悪ィなぁ」  いやどっちが可愛いとかはどうでもいいんだけど(ユウって人は犬神先輩の彼女かな?)仲がいいのか悪いのかよく分からない人達だな……。 「とにかくさっさと俺のノートを返せ!遊に見せてやんだからよ!イチャついてねーでさっさと教室に戻りやがれ!」 「ゴメンな~ノンタン、放課後迎えに来っからよ」 「あ、はい……」 「じゃーな~」  朝比奈先輩は犬神先輩に首根っこを掴まれて、ズルズルと後ろ向きで去っていった。  とても学校一恐れられているド不良には見えない姿だ……。 「……」  オレ、朝比奈先輩にホントは男なんですって言えなかったな。  いきなり犬神先輩が現れたってのもあるけど、言う機会はたくさんあった。  なのに、どうして言えなかったんだろう。  ううん、分かってる。  オレが男だって分かったら、朝比奈先輩はもうあの太陽のような笑顔をオレには向けてくれないだろうなって……  そう思ったら凄く悲しくて、言葉が詰まって何も言えなくなった。

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