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第4話(完)

 完敗でした。  もう、本当に完敗でした。  お料理はすごく美味しかったです。  ワイナリー直営だけあって、そのお料理に完璧にマッチしたワインが一緒にサーブされてきました。先生は全てノンアルコールワインで我慢していましたが、もうこのお料理はワインと一緒に食べるためにある、そしてこのワインはこのお料理と一緒に楽しむためにある、という最高の取り合わせでした。  デザートの前に、クリスマスプレゼントをいただきました。カシミアのマフラーと手袋のセットでした。明るいブルーとグリーンを基調にしたファーガソンエンシェントタータンのマフラーは落ち着いた色合いで、それでいて地味でもなく、手触りも素晴らしかったです。手袋はバックスキンで、こちらもとても暖かいです。  プレゼントの交換をして(ちなみに俺からのプレゼントはシルバーのキーホルダーをつけた、レザーのキーケースでした)、クリスマスツリーみたいなミニクロカンブッシュをデザートにいただく頃には、店内に残っているのは俺達だけでした。男同士でフルコースディナーを食べている俺達を、店のお姉さんがニヤニヤと見ていますが、気にしないことにしました。  支払いを済ませて外に出ると、まるでタイミングをはかったみたいにチラホラと粉雪が落ちてきて、人のいなくなった店の前、大きなクリスマスツリーの下で、先生とチューをしました。  ────でも、そのまま車に乗って、直接家に送り届けられました────orz 「先生!来年はもうどこにも行かないから!来年はもうどこも予約しないでよ!!!」 「なんだよ、初めてのクリスマスだからって、ロマンチッククリスマス的なの期待してたのお前だろ?」 「俺は素敵なディナーもホワイトクリスマスもいらねぇんだよ!地味クリで良いから!地味クリで良いから先生の部屋でちっちゃいツリーの飾り付け一緒にして、骨付きのチキンにかぶりついて、先生とソファでイチャイチャするのがなによりのクリスマスプレゼントだよ!!!」 「クリスマスツリーの飾り付けは、十一月第四週目の日曜日、アドベント開始時って決まってるんだぞ?」 「そういう無駄なトリビアはいらないから!!」 「じゃあいくらなんでも一夜飾りは日本的にもまずいだろ」 「そのいきなり正月飾り的な発言も萎えるから!」  何を言ってものらりくらりと逃げ回る大竹に、そもそも設楽が口で勝てるわけがないのだ。 「ほら、あんまりここで騒いでるとご近所迷惑だぞ。おっと、もう日付変わったな。クリスマス当日だ。早く寝ないとサンタさんがプレゼントくれなくなるぞ?」 「俺のサンタさんは一番欲しいプレゼントは再来年まで待てとか言う、ブラックサンタだよ!!」 「何お前、ブラックサンタ知ってんの?」 「イヤ、知らないけど!」  だから!先生は無駄なトリビアが多すぎるんだよ!!  何だよブラックサンタって!そんなの適当に言っただけなのに、本当にいんのかよ!! 「あれ?知らないか?良い子にしてないとブラックサンタはプレゼントの替わりに鞭で打ったりイヤな物置いておくんだぞ?ははは、残念だったな、設楽。来年一年は良い子にしておいで?」 「良い子にしたって、どうせ来年もブラックサンタだよ!」  大竹はニヤリと笑うと設楽の頬をつるりと撫でて、耳元に口を寄せた。 「なに設楽。お前、鞭で打たれたりするの好きなわけ?ごめんな、俺、そのスキルはないわ」  ムカツク!マジムカツク!!何その楽しそうな、嬉しそうな顔は!!!  クリスマスだよ!?今日は俺達が初めて迎えるクリスマスだったのに……!!! 「俺にもそんな趣味はねぇよ!!!」 「ははは、そりゃお互いに助かったな。それじゃ設楽、また明日。通知票楽しみにしてろよ?」  そう笑い声を残して、唇に素早くキスをすると、大竹は設楽を車の外に放り出し、とっとと車を出発させた。  鬼……!!!  まさに、ブラックサンタクロース……!!!  ブラックサンタの乗る黒い橇ならぬ黒いRVを見送りながら、設楽は今から来年のクリスマスの計画を虎視眈々と練り始めた。  来年のクリスマスなんて受験直前で、大竹がまともなクリスマスなんてやってくれるわけもないという可能性も考えないままに────  ────設楽くんのクリスマスに、幸アレ……。

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