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第3話
予約した八時半を五分ほどオーバーして、車はレストランに到着した。
……よく酔わなかったな、自分。普段安全運転の先生があんなに飛ばすなんて……。
肩で息をしながら、設楽はキョロキョロと辺りを見回した。
レストランの前には大きなクリスマスツリーが飾られ、否が応でもクリスマスムードが盛り上がってしまう。大竹は当たり前のように設楽の為に店のドアを開け、先に入るようにと促してくれた。
うぅう、女の子扱いか……? 確かに、割と先生普段からドア押さえてくれたり、先譲ってくれたりするけど……でもこんな立派なレストランで、フォーマルカジュアルの先生にこんなことされると、エスコート感がバリバリで恥ずかしいんだけど……。
設楽のそんな真っ赤な顔など意に介さないように、大竹は普段通りの顔でコートを脱いでクロークに預けた。なんだか今夜だけは、今にも大竹がコートを脱がしてくれそうで、そんなことを一瞬でも考えた自分が恥ずかしくて、設楽も慌ててコートを脱いでクロークに預けた。
大竹は予め料理を注文していたらしく、席に着くと程なくして料理が運ばれてきた。前菜と共に設楽にはスパークリングワインが、大竹にはノンアルコールのそれが運ばれてくる。
「なんか、俺ばっかり飲んだら悪いみたいだけど」
「気にするな。俺がオーダーしたんだから。ほら。メリークリスマス」
大竹がグラスを持ち上げると、設楽は少し途惑ったような顔をして、それからうん、と小さく頷いて気持ちを切り替えた。それから自分もグラスを持ち上げて、「メリークリスマス」と、にっこり笑った。
「先生、こないだは面倒くさそうだったから、まさかこんなドラマみたいなクリスマスを企画してくれてるとは思わなかったよ」
「なんだよ。お前が最初のクリスマスだってプレッシャー掛けてきたんじゃねぇのかよ」
「いや、俺はおうちでまったりクリスマスでも良かったんだよ?」
「家でまったりクリスマスだと、お前もっととんでもないこと要求するだろ」
ぎく。
「な、何のことかな~?」
「初めてのクリスマスなんだからって、お前サカるだろ?いくら『恋人達のクリスマス』でも、今年と来年は諦めてもらうしかないからな」
「……や、やだな、そんなこと考えてないよ……?」
いや、考えてた。もちろん考えてたよ……。当たり前だよガンガンに考えてたよ……!!!
それがこんな家から遠い所で飯喰っちゃったら、例え速攻で家帰ったって、イチャイチャする暇なんて1mmもねぇじゃんかよ!!
策士!
この、策士めが……!!!
ぎっと設楽が睨み上げると、大竹は一瞬ふっと口元に黒い笑いを浮かべてから、料理を口に運んだ。
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