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第2話
人気の途絶えた深夜の街。
灰谷と手をつないで歩く。
カラダがふわふわする。
そういえばオレたちは並んで歩くのも初めてだった。
お互い相手が気がつかないように見つめているだけだったから。
灰谷の手をギュッと握った。離れないように。
灰谷がオレを見て微笑む。
オレも笑う。
ゆっくりゆっくり歩く。
灰谷の体温を感じながら。
「灰谷」
「ん~?」
オレは灰谷の名を呼ぶ。
「灰谷」
「おう」
「灰谷ぃ~」
「なんだよ」
「灰谷って」
「だからなんだよ」
いじわるしてるな。
「なんでもない」
灰谷がオレの顔をのぞきこむ。
「なんか怒ってるか?」
「別に」
「ククク。お前」
「いじわるしてんな」
「わかったか」
「わかるよ」
「真島。真島真島真島」
優しい顔でオレの名を呼んだ。
「これでいいか」
「これでいいかは余計だよ」
やっと聞けた。灰谷がオレの名前を呼ぶ声。
「お前も言えよ」
「さっき言った」
「もっと言えよ」
「いじわるしたくせに」
「いじめたくなるんだよな」
「小学生か」
「言えよ真島」
「…」
灰谷が耳元でささやいた。
「真島 真島 真島」
耳がくすぐったい。
思わず顔がほころんでしまう。
「灰谷灰谷灰谷」
オレも灰谷の耳元でささやいた。
「ぐわっ、オマエの声、腰に来る」
「なんだそれ」
笑いながらオレたちは歩く。
「元気だったか」
「うん」
「灰谷は?」
「ああ?オレはもう、別に変わんねえよ」
「そっか」
お互いの手のぬくもりだけを感じながらオレたちはだまって歩く。
ただ手をつないで歩いているだけで幸せすぎて何も浮かばない。
灰谷に逢ったら話したいこと、聞きたいこといっぱいあったはずなのに。
あっそうだ。
「灰谷。そういえば、この間おじいさんに会ったよ」
「おじいさん?」
「犬連れて深夜にうちの前を散歩してるおじいさん」
「あ!」
灰谷はちょっと気まずそうな顔をした。
「…花子元気だった?」
「花子?ああ、ワンちゃん。元気だったよ。灰谷になついてたんだって?」
「ああ」
「最近見かけないから花子が淋しがってるって言ってた」
「そうか」
「柴犬カワイイよな」
「おう」
オレは灰谷の顔をのぞきこむ。
「灰谷ぃ~。オマエ、オレの事すんげえ好きな?」
「やめろ」
灰谷の顔が赤くなった。
フフフ。カワイイ。
「でも全然気づかなかったな。灰谷がそんなにちょくちょくオレんちの前でバイク止めてペプシ飲んでたなんて」
「やめろ」
「しかも深夜に一人で、ガードレールに腰かけて、オレの部屋の明かりを見つめながら」
「そんなことまでジジイに話してないぞ」
「やっぱそうなんだ」
オレは顔がニヤけてしまう。
「あ!引っかけたな」
「灰谷ぃ~カ~ワイ~」
「クソっ。チャカすな」
「なんだよう。いつからそんな事してたんだよ」
「別に毎日じゃねえぞ。たまに、ペプシ買いにそこのコンビニ行った時だけだぞ」
その時ちょうど灰谷が事故った交差点にあるコンビニが見えてきた。
「灰谷んちの方にもコンビニあるじゃん。わざわざこっちまで原付に乗って来てたんだ」
「…うちの近所のは買いつくしたんだよ」
「ほほう」
ウソ、ヘタか!
「…ひょっとしたらオマエにバッタリ会えるかなって思ったんだよ」
「え?」
「なんてな。おっ本気にした?」
「つうか、本気だろ」
「うん」
あ、素直だ。
「もう~…会えたらよかったのにな」
「…だな」
もし、会えてたら…。
もし、どっちかが早く告白してたら…。
「つうか、オレの部屋、訪ねてくれれば良かったじゃん」
「行けるかよ」
「来たじゃん」
「あれは…もうさ…」
「…だね」
お互いに言葉を飲みこんで歩く。
コンビニ前の電柱には花やお菓子やペプシが供えてあった。
「ちょと座るか」
「うん」
ガードレールに二人並んで腰掛けた。
空を見上げた。
星がやけにキレイにチカチカ光って見えた。
灰谷と別れたのは夏の終わりだったけどもう秋。冬のはじまり。
「灰谷、寒くない?」
「ん、大丈夫」
灰谷はあの時のままTシャツだった。
「オマエは?」
「ん?大丈夫」
オレは灰谷の肩に頭をもたせかけた。
灰谷もオレの頭に頭をくっつける。
こうやってただ手をつないでカラダをくっつけて、いつまでもそばにいたかった。
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