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第11話 ガラスのハートを守るには

オレ、灰谷、明日美ちゃんでよく来てたファミレスへ。 明日美ちゃんが席に座り、その向かいにオレ、で、いつものようにオレの隣りに灰谷が座ろうとした。 「あ、オマエは明日美ちゃんの隣りだろ」 「え?なんで?」 灰谷が怪訝そうな顔をした。 「あっ、来た」 「え?」 「お~い」 オレは入口に向かって手を振った。 「佐藤こっちこっち」 「お~」 佐藤がニコニコ笑いながら歩いてくる。 いつものアニメTシャツじゃなくてちょっと小ぎれいな襟付きのシャツを着ている。 気合入ってんな~。 「なんだよ真島、佐藤呼んだの?」 「おお。中田は都合悪いってさ。佐藤こっちこっち。ここ座れ」 自分の隣りに座らせる。 灰谷はちょっと憮然とした顔をしたが明日美ちゃんの隣りに座った。 「はじめまして~。明日美ちゃん佐藤です~。灰谷くんと真島くんのお友達です~」 それからはカワイイ女の子と食事ってことで、いつにもましてテンションの上がりまくった佐藤の独壇場だった。 ベラベラしゃべりまくる佐藤と少し困った顔で相づちを打つ明日美ちゃんを尻目にオレは灰谷のオゴリだから、いつもなら頼まない高いステーキを注文してガツガツと頬張った。 「明日美ちゃん、ホントカワイイね。灰谷うらやましい~。明日美ちゃんはあれ、灰谷のどこが好き?」 「え?」 「聞かせて聞かせて」 「あ……あの……ええと……」 明日美ちゃんが赤くなる。 「カ~ワイイ~。赤くなってるカ~ワイイ~」 「佐藤、オマエ声デカイ。うるさい」 「あ~なんだよ、めずらしいな灰谷がそんなこと言うの。中田ならわかるけど~」 ホントだ。灰谷が佐藤にうるさいなんて言うのはじめて聞いた。 「いっつもポーカーフェイスな灰谷も彼女はカワイくてたまらないってか」 「やめろ」 「明日美ちゃん、灰谷ね、カッコイイでしょ。そりゃ女の子は好きになっちゃうよね」 「うん」 「うんだって。オマエ好かれてんなあ~灰谷。こりゃあ真島も危うしだな」 急に矛先がオレに向いてきた。 「なんでオレが危うしなんだよ」 「だってオマエら仲いいじゃん。真島、灰谷獲られちゃうな」 獲られる。獲られるね。 「あ~?ヤロー同士で仲いいとか、獲られるとかキモい。彼女できれば彼女が一番じゃん」 「んなことね~よ」 灰谷が返してきた。 つうかバカかこいつ。明日美ちゃんの前でそんなこと言ってんじゃねえよ。 オレたちは無言でにらみ合った。 不穏な空気を感じたのか明日美ちゃんが話しだした。 「あたしにもね、結衣っていう親友がいるの。友達は大事だよ」 「そっ、そうだよね。友情も大事だよね~」 めずらしく佐藤がフォローに回った。 なんなんだよ灰谷は。なんでそんなに機嫌悪いわけ? オレが佐藤呼んだから? それともたまには三人で遊ぶとかいうのにまだこだわってんのか。 ワケわからん。 オレはメニューを開いて通りかかった店員を呼び止める。 「すいません。注文いいですか。このストロベリースペシャルパフェ下さい」 「かしこまりました」 「オマエ今日はよく食うな真島」 「灰谷のオゴリらしいからさ。オマエも食えよ佐藤」 「え?いいの灰谷」 灰谷の頬がピクリとした。 「……いいよ」 「いやったぁ。真島、メニューちょうだい。なんにしようかな~」 嬉々としてメニューをめくる佐藤。 オゴリと聞いた時の佐藤の注文は容赦がない。 ざまあみろ灰谷。 「あっ、そうだ。オレ、明日からシフト変わるから」 「え?」 「明日美ちゃんとも灰谷ともシフトかぶらなくなったから」 「オマエ、オレそれ聞いてないぞ」 「さっき決まったし。遅番の山下さんが辞めちゃったんだって。で、そこにシフト移ってくれないかって店長に頼まれてさ。オレいなくなっても二人で仲良くがんばってね」 灰谷はシブい顔をした。 「でも、新しい人が入ればシフトも元に戻るんでしょ?」 明日美ちゃんが言う。 「どうだろう。かもしれないけど当分はムリでしょ」 「そうなんだ。真島くん一緒じゃないと淋しくなるね」 盛り上げ役がいなくなると淋しいってか。 知るか。オレはもうオマエら二人に気を使ったりしねえ。 どっちかが退屈しないように話題をふったりだとか。二人の話をつないだりだとか。 ……オレ、性格悪いな。 気を使うっていうんじゃなくて、自然にやってただけなんだけどな本当は。 三人でいるのだって、楽しかったしさ。 できなくなっちまった……。 チラリと灰谷を盗み見れば無表情。 黙々と食べている。 あ、ちょっと怒ってるな。 「でも、仲いいんだね。三人」 場をつなぐように明日美ちゃんが言った。 「あ~もう一人中田ってのがいるんだよ。でも、中田とオレは高校入ってから仲良くなったんだけど。こいつら、灰谷と真島は小学校からの幼なじみってやつだから、もっと仲良し」 「仲良くね~わ。クサレ縁だし」 「またそういう事言う~真島は~スネてんの?」 「スネてねえし」 灰谷、無言。 もう~早く終わんねえかなこの茶番。 佐藤呼ぶなんてちょっとやり過ぎかなと思ったけど、それぐらいしないとオレのガラスのハートは守れない。 ……ってまあ怖かっただけだ。 二人の姿を見てオレが壊れちゃうのが。 壊れそうなのが。 なんかもう、ウジウジウジウジ。 我ながらイヤんなる……。 「すいませ~ん。注文お願いしま~す。このチキンバスケットってのとクラブハウスサンドイッチとデラックスチョコサンデーくださ~い」 やっぱりオゴリの時の佐藤は容赦がなかった。 食事も終わってファミレス前。 「ふう腹いっぱい。灰谷、ごちそうさま~」 浮かれる佐藤。 「灰谷ゴチぃ~」 一応オレも礼を言う。オゴリだからな。 「んじゃあ佐藤、帰るぞ」 「おう」 「明日美ちゃんは遅いし灰谷に送ってもらいなよ」 「灰谷くん、いい?」 「いいよ」 「お~交わす目と目がカップル~」 佐藤がからかう。 「佐藤、やめろ」 「またまた~テレるな灰谷」 満更でもない顔してるな灰谷のやつ。 「灰谷、チャリ貸して」 「え?」 「いや、佐藤んちまでちょっとあるし、恋人同士はゆっくりおしゃべりしながら帰ったらいいじゃん」 「あ?」 「そうだな。そうしろよ灰谷。ラブラブ~」 ちょっと憮然としている灰谷からチャリのカギを奪い取る。 なんだよ。どうせ送って行くだろうが彼女を。歩いて帰りやがれ。 「明日美ちゃん、じゃあまたね」 「うん真島くん、また。佐藤さんも」 明日美ちゃんが笑った。 「カ~ワイイ~。灰谷、お前大事にしろよ。明日美ちゃん、灰谷のことよろしくね」 「はい」 明日美ちゃんは恥ずかしそうにうつむいた。 「佐藤、オマエ早く後ろに乗れよ」 「おお。そんでね明日美ちゃん、あの、今度はお友達もいっしょに……」 オレは自転車を走らせる。 「おい真島まだオレ話してる……バイバ~イ」 灰谷の顔は見なかった。 その夜、シフト替えのことでまた灰谷から電話があるんじゃないかと思ったが、かかって来なかった。 呆れたのか、オレの強い意思を感じ取ったのか、明日美ちゃんといっしょでそれどころじゃなかったのか。 矛盾してるけど、なんだか淋しいと思ってしまうオレって……。 ホント……始末に負えない。

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