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第13話 コンドームの憂うつ

急に、といっても葬式なんていつも急だけど、両親が葬式で家を空けることになった。 明日は日曜だし一泊して夜、帰って来るという。 学校の昼休み、いつものようにオレはみんなを家に誘う。 「いいぜ。空いてる空いてる」 佐藤は即答。 「ワリぃ。オレ、パスだわ。杏子と約束してて」 中田はムリと。 「あ……ワリぃ、オレも今日はちょっと……ダメだわ」 灰谷……ダメか。 「そっか」 「夜は~行ける……と思うんだけど……時間が……」 なんだよ灰谷、歯切れが悪いな。 「あれ~、灰谷ぃ~もしかして明日美ちゃんとキメちゃうの~」 瞬間、オレの胸がひゅっと凍った。  「そんなんじゃねえよ」 チャカす佐藤に灰谷はすこし怒ったような顔をした。 中田が机の上にパラリと何かをばらまいた。 コンドームだった。 「うおっ」 佐藤が声をあげる。 「灰谷、避妊しろよ」 「保険医か。そんなんじゃねえって」 そうなのか? 灰谷の表情をそっとうかがってみる。 この顔はテレを隠すように怒った顔になってるところ……か? 「つうか、こんなの持ち歩いてんの~」 「男のたしなみだろ。佐藤、お前には一生必要ないかもな。よく見とけ」 「なんだよう中田~ヒデエな~。オレだって知ってるよコンドームぐらい」 佐藤が二~三枚つかんで灰谷のポケットに突っこんだ。 「なんだよ」 「まあいいからいいから使える時にお使いなさい。僕も頂きま~す」 灰谷は佐藤に呆れ顔をしながらも、戻そうとはしない。 まさかホントに使うってか? 胸の氷のカタマリの先がキリキリと尖った。 「……オレももらっていい?」 「いいよ」 「えっ、真島、オマエまさか、使う予定があるとでも?」 「さあね」 灰谷の視線を感じる。 「つうかオレは一晩中遊べるぞダーリン」 「ダーリン言うな。ケツも掘らねえしオマエも愛さねえから安心しろ」 オレは一枚つかんで席を立った。 「え?マジでマジで?なんだよなんだよ、みんな色気づきやがって」 「まあオマエより確実に使う機会がありそうだけどな」 「んもー中田はオレの小姑か!真島の相手って誰だよ灰谷」 「知らねえ。つうか相手いるならオレたち誘わないだろ」 「ああ~なんだ真島も欲しかっただけか」 灰谷に図星をさされていた。 * いつもの場所。 校舎の屋上で目を閉じて寝転んでいた。 重い扉の開く音がして……足音。 「おい真島」 オレは目を開けない。 灰谷が隣りに座った。 「あっちぃな……。スネるとオマエここに来んのな」 「スネてねえよ!」 お見通しかよ。 「あのさあオマエ……」 「ん~?」 「それ……いや、なんでもない」 なんだよ灰谷。 誰とも使わねえよコンドームなんて。 「お、ここ意外と涼しいかも日陰」 「だろ」 灰谷も寝転ぶ気配がする。 風が吹き抜けた。 「今日も天気いいな」 「お~」 しばらくしてオレは目をあけ、灰谷を見た。 目を閉じた横顔。 まぶた、鼻、唇、喉仏。 上下する胸。 組んだ長い手足。 そしてかすかに汗のニオイ。 瞬間、馬乗りになって押さえつけ、その一つ一つに口づけたいと思う。 ダメだ。想像するな勃つ。 ため息をひとつ押し殺した。 「灰谷~」 「ん~?」 「避妊しろよ」 「ヤんないって」 ホントに? いつまで? 見上げた空は本当にアホみたいに青かった。

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