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第18話 帰れない①

ゲームセンターから一転、灰谷はホテルの一室にいた。 ホテル。いわゆるラブホテル。 入るのは初めてだった。 あれから、「今日は帰りたくない」と言った明日美は、灰谷が何を言っても聞き入れなかった。 「結衣に電話する」といい、友達の家に泊まると家に連絡してしまった。 灰谷は気が変わってくれないかなと思いつつホテル街を歩いて、冷静になる時間を与えるために先にゆっくりとシャワーを使い、バスローブ姿でバスルームから出ていった。 だが、それもムダだった。 明日美の意志は固いようだった。 恥ずかしいのだろう灰谷とは目を合わさずに明日美はバスルームに消えていった。 灰谷は知っていた。 好きでもない女の子と寝ると後々めんどくさい事になる事を。 中学時代に付き合っていた彼女がそうだった。 自分から誘ったくせに一度でもカラダをつなげると「あたしの事好き?」だのなんだの言い始め、まるでそれを確かめるようにイロイロとワガママをきかされた。 はては「灰谷くんって何考えてるかわからない」と言われてフラれたのだった。 でも、ああまで言ってくれてるのに断るってのも。 ……真島にはヤらないとか言ったのにな。 まあ、なるようになれと思いながら一方で真島の事も気になっていた。 明日美が見たのは本当に真島だろうか。 だとしたら? フラフラしてた? 大丈夫かなあ。 とりあえずLINE、いや、電話だ。 * 本当にあのおっさんとヤっちゃうのかな。 オレはバスローブ姿でベッドに横たわっていた。 ホテルに入ると先にシャワーを浴びておいでと言われ、入る前に薬局で買った浣腸の箱を渡された。 中をよく洗うんだよ、とも。 浣腸なんて子供の時以来だった。 よく洗うってどうやって? とりあえず指を突っこんでシャワーのお湯を入れて洗う。 なんだか生々しい。 酔いもすっかり醒めてしまった。 入れ違いに男がシャワーを浴びている。 ベッドの上に置かれたビニール袋から携帯用のローションがのぞいている。 枕元にはコンドーム。 生々しい。 そういえばオレ、あんまり男同士のセックスについて考えたことなかったな。 灰谷のことはオカズにしてたけど、挿れるとか挿れないとか、ケツ使うとかは考えてなったかもしれない。 そもそも、オレは灰谷が好きなだけで男が好きってわけでもないし。 こういうのホモって言うの?ゲイ?バイ?わかんねえや。 何やってんだろう。 本当に何やってんだろう。 ♪~♪~ ビビった。 スマホの着信音か。 そう言えばタクシーの中でも何回も鳴っていたっけ。 手に取れば画面に"灰谷“の文字。 灰谷 灰谷 灰谷 灰谷 灰谷。 オレ……オレ……灰谷、オマエいまどこに誰といる? オレは……灰谷 灰谷 灰谷っ。 電話が切れたと思ったらすぐにLINEが来た。 画面にメッセージが流れる。 『大丈夫か』 大丈夫って何が大丈夫だよ。ちっとも大丈夫じゃねえよ。 『うち帰れたか』 なんで家にいないってわかんだあいつ。 帰れてない。帰れてねえんだよ灰谷。 オレ、帰った方がいいのか……。 ――帰れねえよ。 帰ってもそこにオマエはいないじゃん。 オレ、一人でいられねえ。 スマホの電源を切った。

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