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第19話 帰れない②

シャワーの音が止まった。 オレは起き上がって、ベッドのフチに腰掛ける。 バスローブを着て男が出てきた。 「大丈夫?」 灰谷と同じこと聞くな。 「大丈夫です」 男は横に座って、ふう~と息を吐いた。 「本当に、いいの」 「いいです」 男はオレの頬を撫でた。優しい目だった。 男相手にこんな表情されたのは、生まれて初めてだった。 女の子ってこういう時、いつもこんな顔で見られてるのかな。 灰谷も明日美ちゃんに、こんな顔してんのかな。 男は言った。 「思えるならオレを君の好きなやつだと思ってもいいよ。目を閉じててもいいし、名前を呼んでもいい。イヤだと思ったらすぐに言って、やめれるうちはやめるから。君のトラウマになりたくないし。ただ、気休めかもしれないけど。これはセックスだよ。ただのセックスだ。それ以上でもないし、それ以下でもない」 ただの……セックス……。 「……なんでそんなに優しいんですか」 「優しくなんてないよ。これは優しさなんかじゃないんだ。……君はたぶんオレだから。何年か前のオレだから」 男はオレにキスをした。 ふわりと優しかった。 ベッドに押し倒された。 ふわりふわりとしたキスは首から胸に降りてくる。 灰谷。灰谷。灰谷。 オレは目をぎゅっと閉じた。 * 灰谷はやきもきしていた。 真島は電話に出ないし、LINEに既読もつかない。 もう一度電話するかと思った時、シャワーの音が止んだ。 明日美がバスローブではなくバスタオルを巻いて出てきた。 恥ずかしいのだろう。 頬は赤く染まり目を伏せ、泣きそうな顔をしている。 そんなに頑張らなくてもいいのに……。 灰谷の前まで歩いてくると、明日美は震える声で言った。 「灰谷くん、やさしくして」 灰谷が腕にふれるとピクリとカラダを震わせた。 カワイイな。 オレなんかにそんなに緊張して。 灰谷は思った。 そっと抱き寄せるとプルプルと全身が震えた。 小さなアゴに手をかける。 見上げる目が赤く潤んでいた。 小さなぽってりした唇に口づける。 柔らかい唇。 そのあとは衝動が灰谷を突き動かした。 一瞬、真島の顔が頭をかすめたが、すぐにそれは消えた。

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