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第16話 男、抱ける?

しょうがないから男について行く。 どこまで行くんだよ。 イライラし始めた時、公園に着いた。 男はベンチに座った。 そして、人懐っこい笑顔でこう言った。 「未成年だって酒飲みたい時もあるよね。ビールちょうだい。いっしょに飲もう」 缶を渡すと男はおいしそうにぐぅ~っと一気にあけた。 「プハーッ。君も飲めば?いいよ。飲みたいんでしょ」 しょうがなく男の隣に腰を下ろし、男にならってビールをぐぅ~っとあおった。 「プハァ~」 「いい飲みっぷり。いいねえ。なんかメシ食った?空きっ腹だと回るからさ、なんか食べながらのほうがいい……ってチータラしかないか」 男はチータラの袋をあけた。 「こうやってさ、チビチビ食べながら飲むとうまいんだよ」 オレは男をこっそり観察する。 細身のスーツ。こざっぱりして清潔な印象を受ける。 顔は整っていた。イケメンの部類に入るだろう。 背もオレより少し高かった。 手足が長くて顔が小さい。 背格好が灰谷に似ている……気がする。 そこはかとなく色気もあって女にモテそうだ。 「いいよ、好きなだけ遠慮なくやっちゃって」 男と並んで酒を飲んだ。 元々オレはそんなに酒が好きではないし強くもない。 あいつらと集まった時にネタで口をつけるだけだ。 一応未成年だしね。 男は酒に強いらしく、顔色ひとつ変えずに次々と缶を空にした。 オレは1本目のビールが中々減らない。 そんな様子を見かねたのか男が言った。 「ビールはさ、味わうんじゃなくて、ノドに流しこむ感じで飲むとウマイよ」 ノドに流しこむ? こうか? ゴクゴクゴク。 ん? ゴクゴクゴク。 プハーッ。 あ、ウマイかも。 「ね?」 男はニコリと笑った。 「……っすね」 二人、たんたんと飲んだ。 どれくらいそうしていたんだろう。 「あ、ほとんどオレが飲んじゃった。ごめんね。足りないなら買ってくるけど?」 男が言う。 「いいです」 オレ、何やってんだ。見知らぬ男と公園で酒なんか飲んで。 灰谷はもしかしたら今頃。 今頃……。 「……いいよ、泣いても」 「は?」 「なんかさっき泣きそうな顔してたからさ、コンビニで。まあ誰にだって泣きたい夜くらいあるよ」 思っても見なかった言葉はオレの中にふわりと入ってきた。 つい、返していた。 「おっさんも?」 男は苦笑いした。 「おっさんって、まだ二十八だけどオレ。まあ、君からしたらおっさんか。いいよおっさんで」 男はくしゃりと笑った。 「おっさんも、泣いたりすんの」 「泣かないねえ~。泣かないわ。いや、泣けないのかな」 「おっさんになったら、泣けなくなるの」 「どうだろねえ」 男ののんびりした口調にオレの心が緩んだ。 「最後に泣いたのっていつ?」 「う~んとぉ……三年前かな」 「なんで泣いたの」 ふぅ~と男は小さく息を吐いた。 「好きなやつが結婚した時」 「フラれたの?」 「フラれたのかなあ。まあ元々ねえ~叶うはずもなかったし。そばにいられりゃよかったんだけど」 「他のやつに獲られたんだ」 「そうだねえ。まあそうなるんだろうなあ」 男はビールをグイッと飲んだ。 「告ったの?」 「いや」 「そんじゃ相手わかんないじゃん」 「いや、わかってたと思うよ。長い付き合いだからね」 「でも、ダメだったんだ」 「ダメだったんだろうなあ」 独り言みたいに男はつぶやいた。 また、二人黙って、たんたんと酒を飲んだ。 しばらくして、ぽつりと男が言った。 「そいつにさ、子供ができたんだって。今日電話があって」 子供? ――もし灰谷に子供ができたら。 その前に結婚したら? オレもこの人みたいに泣くのかな。 「ちゃんとオレに電話してくるんだ。他から聞く前にさ。そういう奴なんだよ。オレのこと受け入れられないのに突き放しもしねえの。生殺し……」 悲しみがぎゅっと凝縮した。 男は口をつぐんでそれを飲みこんだ。 「……酒でも飲むかって」 「……うん」 「まあ人生にはこういう夜もあるんだよ、きっと」 男は泣いていた。声も涙も出さずに泣いていた。 それがオレにはわかった。 なんだか泣けてきた。 男はオレの顔を見てビックリした顔をした。 「なんだよ、オレの話聞いてなんで君が泣きそうなの」 「いや、オレの未来だから」 「そっか、君も報われない恋をしてるんだ」 「恋?恋なのかな。これが?地獄だよ」 「そうだね。地獄だ。よく知ってる」 オレは思った。この人ならダメかな。 思い切って言ってみた。 「おっさん……男、抱ける?」 男は大きく目を見開いた。 「なんでわかった」 「え?あ、じゃあ、もしかしてその相手って」 「うん。男だ。高校からの親友だ」 「……」 「そっかそういうことか。君も……。でも、初めてだろ」 「うん」 「初めてはやっぱ……」 「女子じゃねえし。好きなヤツとできないんなら誰とヤったって同じだよ」 「……」 男が迷っている気配がした。 「おっさんがダメなら、他で探す」 ふう~と男はため息をついた。 「……そうだな。……じゃあ……行こっか」 男が立ち上がった。

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