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第24話 夏休み

夏休みに入った。 オレはバイトのシフトで予定をバンバン埋めた。 ただ一つ明日美ちゃんとは一緒にならないようにだけは気をつけて。 先手必勝。 時間がありすぎるとロクなことを考えない。 この夏は金を稼ぐ!と決めた。 何より働いていれば灰谷の事も、灰谷と明日美ちゃんの事も考えずにいられる。 オレ自身の事も。 その日は久々の休みで、オレは部屋で惰眠をむさぼっていた。 あ~よく寝た~って起きたらもう午後でベッドから下りようとしたらなんか踏んづけた。 なんだっけコレ?紙袋に世界一有名なネズミキャラクター。 明日美ちゃんからもらったおみやげのチョコクランチだった。 灰谷と明日美ちゃんはデートであちこち遊びに行ってるみたいだった。 しかし……ランドとはね。 夏休みで混み混みだろうに。 灰谷ああいうの好きじゃないだろ。 でもいっしょに行ってあげちゃうんだな、と思えば気持ちも沈む。 突然、オレの部屋にヨーデルが鳴り響いた。 ♪ヨロロロロリホ ヤヒホリヨホホ ヨロロロロリホヤ ラリホリヨ~ 電話の着信音。 ――灰谷からだ。 ペーター灰谷の着メロをマジサトナカ(オレ・佐藤・中田)の三人はヨーデルにしたからだった。 LINEのグループ名は『ペーター灰谷と搾乳隊』に変更された。 まあ実際に搾乳するのはペーター灰谷だけなんだけど。 灰谷が嫌がって元の『サトナカマジハイHiHiHi』に戻そうとするが、三人で阻止している。 『ペーター灰谷と搾乳隊』よりウケるやつじゃないとムリだろうな。 しかし荘厳だなあ~ヨーデル。 ハハハハハハ。 乾いた笑いが出る。 「ウィ~、ペーター灰谷」 『ペーターやめろ。つうか着メロ変えてグループ名を戻せ』 「やだね」 ん~今の時間、灰谷バイトじゃねえの?休み時間か。 「んで何?あふ~」 『寝てたのか?』 「うん」    『つうかめずらしく明日もバイト休みだろ。映画行こうぜ』 「いや、入ってる」 『え?』  「遅番代わったから」 チョコクランチを一個口に放りこむ。 ウマッ。 『じゃあ明後日は』 「シフト。オマエも一緒だろ確か」 『そっか。じゃあその次の日は』 「さっき多田さんに頼まれて遅番変わった」 『多田さん?』 電話の向こうで灰谷がイラッとしたのがわかった。 『なんか今月の多田さんのシフト、ほぼ真島が出てねえか?』 「あ~なんか実家のお母さんが入院するとかで付き添いに行くんだってさ」 『あ~そりゃ……。でも、オマエばっか、代わんなくてもいいだろ。店長いるんだし』 「まあそうだけど。金になるし」 もう一個口にポイッ。 『金金ってなんでそんなに金いるんだよ』 「バイク」 『それ夏休み前から言ってねえ?』 「言ってるね」 『……』 灰谷が押し黙った。 オレはもう二つチョコクランチを口に放りこむ。 ん~口の中チョコレート~。 『オマエ、もしかしてオレと遊びたくねえの?』 「……」 今度はオレが黙る番だった。 『黙んなよ。冗談なのに』 「いや、別に。オマエ、乳搾り、いや、デートで忙しいだろ」 『んなことねえよ』 「まあオレ、今年の夏は金稼ぐからさ、灰谷は青春しろよ」 『なんだそれ』 「ワリぃ、まだ眠いから切るよ」 『おい真島。いつなら映画行けんだよ』 「映画はDVDでいい。人混みキライだし。明日美ちゃんと行けよ。じゃな」 『真島……』 なんか言いかけてたみたいだけど切っちまった。 ビニールの包み紙が山になっていた。 オレはかき集めてゴミ箱に捨てる。 オレ断ったし、映画、明日美ちゃんと行くんだろうな……。 あ~ウジウジウジウジ。 やんなるわ! 腹も減った……。 お菓子じゃ埋まんねえ。 階段を降りて一階へ。 「母ちゃ~ん」 母ちゃんの姿はなく、台所の机の上に、ラップがかかった焼きそばとメモがあった。 パートか。 ”レンジでチンして食べなさい。母” レンジでチンとか言い回し古っ。昭和か! 焼きそば食べた後はゲームやってDVD見て。 またちょっとウトウトして。 夕方になって帰ってきた母ちゃんと夕飯食ってテレビ見て。 んでまたゲームやって……って不毛~。 オレはコントローラーを放り出して、ベッドに寝転んだ。

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