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第29話 アイス一本の友情

二日後のバイトのシフトは灰谷といっしょだった。 チャリで迎えに来た灰谷に玄関先で母が言う。 「灰谷く~ん。なんか久しぶりな感じがするわ~」 「そうすか?」 「灰谷くんなんか日焼けした?男ぶり上がってる」 ホントだ。なんか少し黒い。精悍な感じつうの?こういうの。 何日かぶりに見る灰谷は少し日焼けしていた。 明日美ちゃんと毎日相当出歩いてるんだろうなと思わせた。 このメラニン野郎め。 「焼けやすいから。節子は相変わらず白いね」 「日焼け止めしっかり塗ってるし美白してるのよ~。色白だけが取り柄だし」 「そんなことないでしょ。明るいし、メシうまいし、働き者だし、カワイイし」 「やだ(まこと)。灰谷くんったら口がうまくなってる!」 スニーカーのヒモを結びなおしていたオレの背中を母がバンバン叩く。 「イタっ。ババア。叩くな」 「ババア言うな。もう~灰谷くんたら灰谷くんたら~」 下らねえ~。 まあでもホントに口がうまく回ってるっていうか。 これもお付き合い効果ってやつだろうねえ。 それにこいつのこのポーカーフェイスってウソ言ってるように見えねえもんな。 これでボケて、たまに大きな笑いをかっさらう時もあるしな。 この間の『搾乳依頼』とか。 ククク。 思わず思い出し笑い。 「(まこと)、あんた何笑ってんの」 「笑ってねえわ。行ってきます」 「行ってらっしゃい。灰谷くん、夏休みの間も、もっと遊びに来てね」 「はい」 チャリでタンデムしてバイト先のコンビニへ。 こいつの背中も久しぶり。 特に待ち合わせもしてないのに、シフトに合わせてちゃんと迎えに来るとか。 さすがだよ。 役割果たすぜA型男子~ってか? 「あ~暑ぃ~アイス食いて~」 「ん」 灰谷が無言でチャリのカゴからビニール袋を取ってオレに渡す。 「あ?」 「言うと思って」 ビニールの中にはアイスが入っていた。 ソーダ味で棒が二本刺さってるやつ。 こいつのこういうとこ! もう~。 袋を開けたらボタボタと垂れた。 「……ってちょっと溶けてるし!」 灰谷は振り返って言った。 「あ~ワリぃ。オマエんち持って入ろうと思ったのに忘れてた」 このウッカリペーター! 「口開けろ」 「ん?」 アイスをパキッと二つに割るとふり向いた灰谷の口に一本つっこむ。 「んうっ。んまい。あ~でも垂れる~」 チャリ漕ぎながら手を使わずに器用に食べ進める灰谷。 残った半分をオレもかじる。 シャクシャク。 口に広がるソーダ味。 夏はアイスだ。ソーダ味だ。 こうやって来たのにな。 二人で一つのアイスを分けあって……って。 「あ~手、ベタベタ。おっ、いいお手ふきが……」 灰谷が振り返った。 オレは灰谷の背中に手をこすりつけるフリをする。 「あ~オマエそういうことすんなよ。このシャツあんま着てないんだから」 あ?そういえばなんか新しいし、それに灰谷の趣味とは違うような……。 ブランドのポロシャツ?いつも夏はTシャツしか着ないのに。 ――明日美ちゃんか選んだとか?もらったとか? まるで……そう。彼女の両親と会ってもいい感じ? 「知るか」 オレはシャツに手を盛大にこすりつける。 「やめろって~」 「いいじゃねえか。気にすんな。わかんないよ」 「つうか普通にヤだろ、そういうの」 「オレ平気」 「オマエはな!ったく……真島が食べたいって言うと思って買ってきたのに」 わざわざオレのために? アイス一本? 安いな友情って。 「灰谷のせいで手がベタベタなんじゃん。オラオラ」 「やめろって~」 コンビニについた時、オレと灰谷は険悪なムードだった。

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