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第38話 初恋の思い出
セフレ。
灰谷の頭の中ではその言葉がぐるぐる回っていた。
真島にセフレ。
この間、首の後ろにキスマークつけていたのは知ってたけど。
セフレだったとは。
なんか……。
そう、なんか、もう……。
なんだこの気持ち。
あの真島が。
この真島がなあ~。
背を向けて眠る真島の姿を灰谷は眺めた。
小学生の頃、転校していった先で灰谷くんは色白で大人しそうなショートカットの女の子の隣りの席になった。
その子に先生は言った。
「健二くんに教科書見せてあげてちょうだいね」
机をくっつけて教科書を広げる。
灰谷くんはドキドキした。
その子がとてもカワイかったから。
「オレ、灰谷健二。よろしくね」
声をかけるとその子は微笑んでこう言った。
「オレ、真島信 。よろしくな」
ん?オレ?まこと?男?
その瞬間に灰谷くんの短い初恋は終わったのだった。
二人は仲良くなった。
真島くんは見た目とは違いかなり凶暴だった。
「お嬢ちゃんカワイイね」と知らないおじさんに頭を撫でられれば、股間にキックをお見舞いした。
「女じゃねーし。さわんな。キモいわおっさん」
あまりに短く悲しい過去として封印されていたのだが、セフレの言葉とともになぜか灰谷の脳裏に蘇ってきた。
真島は中学生になるとメキメキ背が伸びて、さすがに女の子とは言われなくなった。
まあ、キレイな整った顔はしてんだよな。
真島はババアって言うけど、節子だって歳はとってるけど美人だしな。
ホント、真島に妹でもいたら、ちょうど良かったのに。
真島の細い背中を見て灰谷は思う。
こいつもこう見えて男なんだなあ。
ってまあ自分もヤってんだけど。
真島に言った言葉にウソはない。
ただ明日美の好きとは、やはり違うように思う。
本音はと言えばヤリたい、それにつきた。
デートとかいろんなことすっとばしてヤリたい。それが一番だった。
でも、さすがにそういうわけにはいかないから、手続きを踏む意味でデートしているといった感じだった。
明日美にすまないという気持ちも少しはあった。
灰谷は時々自分がサルになった気さえする。
男の性欲、いや本能というのだろうか、はスゴイとも思う。
女にもあるのだろうか。
ないことはないんだろうけど……。
はあ~。
灰谷はまたため息をついた。
セフレ。
あらためてその三文字の破壊力に灰谷は圧倒される。
真島だって自分と同じ十代男子なんだから、そういうことがあっても当然だとは思う。
佐藤や中田と四人でエロ話だってするし、エロ動画見てるのも知っている。
ただ「好きじゃないと付き合えない」発言も含めて、真島にはそういう感じ(心とカラダは別物みたいな割り切った関係を結べる)とは無縁なイメージが灰谷の中にあった。
思いもかけない真島の告白に少なからず灰谷は驚いていた。
そしてなぜかショックを受けていた。
以前英語の田中が教えてくれた詩にこんな感じのものがあったことを灰谷は思い出した。
なんだっけ。
そうそう。
汚れっちまった悲しみに
いたいたしくも怖気づき
汚れっちまった悲しみに
なすところもなく日は暮れる……
確かそんなの。
汚れ。汚れかあ。
なすところもなく日は暮れる。
なすところもなく日は暮れる。
灰谷は真島に気づかれないように、もう一つため息をついた。
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