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第37話 つぶれた心臓
「何、真島。オマエ好きなやつ、いんの?」
灰谷の言葉に心臓が止まる。
「誰だよ。オレも知ってるやつ?」
灰谷がオレの顔を見つめる。
オマエだよ。
灰谷、オマエだよ。
オレが好きなのは昔からオマエ、一人だよ。
言ってしまおうか。
今なら言える……って言えんのかオレ。
言えるか!
オレは目をそらした。
「……いねえよ」
「なんだよ。オマエも人のこと言えないじゃん」
「アスミルクのこと好きじゃねえの」
「アスミルク言うな。好きだよ」
さらりと灰谷は言った。
好き?
こいつ今、好きって言った?
好き……なんだ。
明日美ちゃんのこと好き……なんだ。
心臓がつぶれた。
「多分」
え?なんか言ってる?
「明日美ちゃんの好きとは違うかもしれないけど。それなりに」
それなり?それなりってなんだよ。
オレの心臓返せよ。
でも、こういうこと口に出して言ったことがない灰谷がオレに好きって言えるほどには好きなんだ。
へえ~へえ~へえ~。
なんか……言わなくちゃ。
なんでもいい。
なんか。
な……。
戻ってこいオレの心臓。
「いい乳、出んだな」
「いや、だから出ねえって」
「搾乳ペーター」
「それやめろ」
よかった。しゃべれた。
ヒドイセリフだけど。
「なんか……」
灰谷が言いかけてやめた。
オマエも「なんか」かよ。
なんか祭り?
「ん?」
「まあいいや」
「なんだよ」
「なんでもねえ。明日シフト十時からだっけ。アラームかけとくわ。九時でいいか。もう寝ようぜ」
「ああ。電気消すわ」
タオルケットにくるまり、灰谷に背を向ける。
寝姿とかヤバイし。
なんか…か。
なんか遠くに来ちゃったな、ってところかな。
灰谷が言いたかったのは。
ホント……。
中学生のオレたちが今のオレたちを見たら、どんな風に思うんだろう。
中学生のオレの目には今のオレはどんな風に映るんだろう。
中学生のオレに、オマエはこの何年か先に男に抱かれてあんあん言う事になるよっていったらどんな顔するんだろう。
灰谷の寝姿見れなくて悶々とするよって言ったら。
ゴメンな中学生のオレ。なんか汚しちゃったみたいで。
「気にすんな高校生のオレ!」と言ってはくれないだろうか。
……くれないだろうな。
でも、どうにかこうにかこうやって心臓がつぶれても生きてるからさ。
生きるってキレイ事ばかりじゃすまないんだよ。
許せ中学生真島。
SF小説みたいなことを思いながら、つぶれた心臓をさすりながらオレは眠りについた。
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