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第50話 夏を楽しむ②
灰谷はオレの言葉を無視して、電話をかけはじめた。
「あ、明日美?オレ。みんなで海行かないかって言ってんだけど……うん。
で、結衣ちゃんもいっしょにどうかな。真島も来るし……行ける?」
つうか行くって言ってねえぞオレ。
「うん……うん……わかった。じゃ、あとで。はい。大丈夫だって海。結衣ちゃんも」
「うお~じゃ、みんなで行こうぜ。海海」
佐藤が盛り上がる。
「つうか何勝手に決めてんだよオレ行かねえって」
「それより真島、セフレって」
「言わねえ」
「秘密主義~」
「オマエがあけっぴろげすぎんの」
あ~なんだ灰谷のやつ、マジむかつく!
「つうかなんだよ。オレだけノケモノかよ。どうせオレはラスト童貞だ!!」
「ってオマエ、ラストサムライみたいに」
「おっ、中田のツッコミめずらしい」
言うだけ言うとすました顔で灰谷はマンガを読み始めた。
なんなんだろう。いつもならこんなこと言うやつじゃないんだけどな。
こいつ何を考えてるんだ。
突然オレに女紹介するとか。
自分がうまくいってるから、オレにもあてがおうってわけか?
チクショー。
「海海~。夏を楽しまなきゃだぜ、真島!」
佐藤に肩を叩かれた。
夏を楽しむ……か。
城島さんも同じこと言ってたな。なんであんなこと言ったんだろ。
城島さんが夏を楽しむ――。
あの人はそもそも人生を楽しもうって感じがない人だ。
一人で抱えて、自分に厳しくて。
そして……オレに甘い。
甘くて甘くて溺れてしまいそうになる。
離れられなくさせる。
でも……それもリセットしたいのかもしれない。
オレとのことを再設定しなおしたいのかもしれない。
その為に時間が必要なのかも。
そんな気がする……。
城島さん。
眠れる森の美女のように。
何もかも捨てて、空っぽの部屋で目を閉じて夢を見ている。
その夢はものスゴイ悪夢だけれど。
いつか王子が現れてそのキスで目覚めることはできるのだろうか。
その可能性は多分、極めて低い。
でも信じてるんだ、きっと。
0.00001%の確率でもゼロじゃないから。
そういう奇跡みたいな瞬間を探してる人なんじゃないかって気がする。
究極のロマンティストなのか。狂ったMなのか。
しばらく、城島さんがいない。
夏休みはまだ終わらない。
それにしても灰谷のやつ……。
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