51 / 154

第51話 帰り道のケンカ①

佐藤の家からの帰り道。 中田と別れて、オレを乗せるでもなく、先に帰るでもなく、自転車を押し、黙って歩く灰谷。 その灰谷の背中にオレは言った。 「なんであんな話すんだよ」 「何がだよ」 「セフレとか」 「いいだろ、セフレの話ぐらい。なんか問題あっか?」 「……ねえけど。佐藤に悪いだろ」 「佐藤なんか気にしてねえくせに」 聞こえるか聞こえないかの声で灰谷は言った。 「何がだよ」 「なんでもねえよ」 つうかなんでこっち見ねえのこいつ。 「何、絡んでんだよ?」 「絡んでねえよ」 「おい灰谷」 前を向いたまま。 「灰谷って」 オレの方を見ない。 「灰谷!」 灰谷が止まった。 「言いたいことあるなら言えよ」 「……」 「聞きたいことあるなら聞けよ」 「……」 灰谷はこっちを向かない。 「……ねえよ」 「絡むぐらいならオレに聞けよ、なんでも答えてやっから」 「聞きたくねえよ」 「は?」 「聞きたくねえつってんの」 「つうか聞けよ」 「それ以上なんか言ったらただじゃおかねえぞ」 「ただじゃおかねえってなんだよ。オマエなあ……」 その時、灰谷が振り向いた。 その――顔。 こいつ……もしかしてわかってる? 城島さんが親戚じゃなくて、オレの言うセフレだって? そうなのか?そうなのか灰谷。 にしたってオマエ……。 「オマエ、こないだと言ってること違うじゃん」 「……」 「オレがなんでも構わないんじゃなかったのかよ。一番の親友だってのは死ぬまで変わらないんじゃなかったのかよ」 「変わんねえよ。変わんねえけど……」 「変わんねえけどなんだよ」 「……なんでもかんでも話せばいいってもんじゃないだろ。オレも、聞かねえし」 受け入れられないってことか。 受け入れられないから聞きたくないってことか。 「……だな。オレもオマエも、もうガキじゃないんだし。いつまでもおんなじ方ばっかり見てもいられないわな」 「……ああ」 「よくわかったわ」 オレは回れ右して、灰谷から遠ざかった。 まあそうだよな。 気持ち悪いよな。 親友が男とヤってるかもなんて。 聞きたくないよな。 オレの口から聞かなければ、知らなければ、それはなかった事なんだろ、オマエの中で。 でも、割り切れなくて絡んできたんだ。 オレ、いくらでもウソついたのに。 じゃなきゃ気持ちワリぃって言ってくれりゃあよかったのに。 あんなこと……言ってくれなきゃ良かったのに。 そうしてくれたら、こんな、最悪な気分にならなかったろうに。

ともだちにシェアしよう!