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第52話 帰り道のケンカ②

オレ、何やってんだ。何やった? 灰谷は自己嫌悪に打ちのめされていた。 真島を……傷つけた。 それだけは確かだった。 でも……。 言いたいことがあるなら言え?聞きたい事があるなら聞け? あるさ。あるよ。 でも……言えるかよ。聞けるかよ。 あの親戚の男ってのは親戚なんかじゃないんだろう。 つうか、あの男がオマエの……オマエの……セフレなんだろう? 聞いて、それで、どうなるんだろうと灰谷は思った。 たぶん真島はウソをつくだろう。 この間みたいに。 「オマエがなんでも構わない」って言っておきながら、真島にまたウソをつかせるのか? それでオレは、なあ~んだって笑い飛ばすのか? できるのか? ……できねえよ。 灰谷は自問自答した。 それとも、真島は今度は真実を語るかもしれない。 そうだと言われたら。 あの男がオレのセフレだと言われたら? 「そうじゃないかと思ってた。でもそんなのは全然構わない。オマエはオレの親友だから」と言えただろうか。 ただのセフレなら別によかった。 よくはないけれど、いろいろ気にはなるけど、最初はビックリしたけど。 男だというのも少なめに言ってビックリしたけど。 別にいい。それも構わない。 でも……。 灰谷には根拠のない確信があった。 あの城島って男は多分、真島にとってただのセフレなんかじゃない。 さっき真島にかかってきた電話。 あれもあの男だろう。 部屋に戻ってきた時の真島の表情でそれがわかった。 わかったら、ああして、絡んでしまった。 灰谷には始めわからなかった。 何が起こっているのかが。 まるで事故にあった事に気がつかずに、日が経つにつれ、あちこちが痛み出すように。 それは灰谷の中でじわりじわりと広がっていった。 今日、わかった。 その痛みの正体は嫉妬だった。 あの男といっしょにいた時の真島の姿。 自分などまるで眼中にない様子。 灰谷にはある思いがあった。 そんな思いがあることすら、今の今まで気がついていなかったけれど。 その何かを言葉にすると、とても陳腐なものになってしまう。 友情?信頼?絆? もしくはそれを合わせた感情。 「何があっても変わらない何か」が在ると。 自分だけではないと思っていた。 自分が感じているように真島も感じてくれていると。 言葉になんかしないけれど。 言葉になんかできないけれど。 確かににそれは在ると。 それが、裏切られた気がした。 心の奥底で真島に傷つけられたと感じていた。 それは小さく軽く深い絶望だっだ。 なんだオレ。 オレ、なんだ? 自分の事ばっか。 オレ、ちっせえ。 器、ちっせえ。 サイテーだ。サイテー。 真島、ごめん。 ごめん真島。 灰谷はその日、自転車を押しながらグルグルと歩きまわった。 頭もカラダもクタクタに疲れ、動けなくなるまで。 そして家に帰ると死んだように眠った。

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