52 / 154
第52話 帰り道のケンカ②
オレ、何やってんだ。何やった?
灰谷は自己嫌悪に打ちのめされていた。
真島を……傷つけた。
それだけは確かだった。
でも……。
言いたいことがあるなら言え?聞きたい事があるなら聞け?
あるさ。あるよ。
でも……言えるかよ。聞けるかよ。
あの親戚の男ってのは親戚なんかじゃないんだろう。
つうか、あの男がオマエの……オマエの……セフレなんだろう?
聞いて、それで、どうなるんだろうと灰谷は思った。
たぶん真島はウソをつくだろう。
この間みたいに。
「オマエがなんでも構わない」って言っておきながら、真島にまたウソをつかせるのか?
それでオレは、なあ~んだって笑い飛ばすのか?
できるのか?
……できねえよ。
灰谷は自問自答した。
それとも、真島は今度は真実を語るかもしれない。
そうだと言われたら。
あの男がオレのセフレだと言われたら?
「そうじゃないかと思ってた。でもそんなのは全然構わない。オマエはオレの親友だから」と言えただろうか。
ただのセフレなら別によかった。
よくはないけれど、いろいろ気にはなるけど、最初はビックリしたけど。
男だというのも少なめに言ってビックリしたけど。
別にいい。それも構わない。
でも……。
灰谷には根拠のない確信があった。
あの城島って男は多分、真島にとってただのセフレなんかじゃない。
さっき真島にかかってきた電話。
あれもあの男だろう。
部屋に戻ってきた時の真島の表情でそれがわかった。
わかったら、ああして、絡んでしまった。
灰谷には始めわからなかった。
何が起こっているのかが。
まるで事故にあった事に気がつかずに、日が経つにつれ、あちこちが痛み出すように。
それは灰谷の中でじわりじわりと広がっていった。
今日、わかった。
その痛みの正体は嫉妬だった。
あの男といっしょにいた時の真島の姿。
自分などまるで眼中にない様子。
灰谷にはある思いがあった。
そんな思いがあることすら、今の今まで気がついていなかったけれど。
その何かを言葉にすると、とても陳腐なものになってしまう。
友情?信頼?絆?
もしくはそれを合わせた感情。
「何があっても変わらない何か」が在ると。
自分だけではないと思っていた。
自分が感じているように真島も感じてくれていると。
言葉になんかしないけれど。
言葉になんかできないけれど。
確かににそれは在ると。
それが、裏切られた気がした。
心の奥底で真島に傷つけられたと感じていた。
それは小さく軽く深い絶望だっだ。
なんだオレ。
オレ、なんだ?
自分の事ばっか。
オレ、ちっせえ。
器、ちっせえ。
サイテーだ。サイテー。
真島、ごめん。
ごめん真島。
灰谷はその日、自転車を押しながらグルグルと歩きまわった。
頭もカラダもクタクタに疲れ、動けなくなるまで。
そして家に帰ると死んだように眠った。
ともだちにシェアしよう!