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第53話 海①

数日後、結局断りきれずに海に行くことになってしまった。 駅で待ち合わせて電車に乗って海まで。 男4女4のカップリング。 その朝も灰谷はいつも通り、なんでもない顔をしてチャリでオレを家まで迎えに来た。 オレもなんてことない顔をして後ろにまたがる。 これも幼なじみのなせるワザってやつなのだろうか。 あれから灰谷とは話をしていない。 今日だってほとんど顔を見ずに「ウイッス」ぐらいのもん。 つうか、律儀すぎて涙が出るよ、与えられた役割はこなしますA型男灰谷。 外は暑い。 ギラギラ太陽。 こりゃ海、暑いぞ……。 自転車を漕ぐ灰谷の背中。 Tシャツにはもう汗が滲んでいる。 灰谷……あくまでもいつも通りってわけか。 いつも通りなわけない。 あれから色々考えてみたけど……。 結局オレ、どうしたかったんだろう。 どうして欲しかったんだろう。 受け入れて欲しかったのかな。 男と寝るオレも。 そして……オマエのことを好きでいるオレも。 丸ごと全部。 望みすぎなんだきっと。 望みすぎて、壊した。 いや、まだ壊れてはいないか。 ヒビが入った。 それはまだ小さな亀裂で。 どうにかなるかもしれない。 どちらにせよ灰谷は悪くない。 悪くない。 わかっちゃいるけど……。 「ふう~」 深いため息が出た。 * 真島のため息を背中で聞きながら、灰谷は思う。 迎えに行った方がいいのか行かない方がいいのか、今まで通りに接していいのか悪いのか、これでも逡巡した。 口から出てしまった言葉は取り消せない。 真島がオレの言葉をどう受け止めたにせよ。 オレの嫉妬心。 情けないオレの嫉妬心。 それをオレは真島にだけは知られたくない。 そんなやつだったのかと思われたくない。 「はあ~」 もう~。 暑い~。 なんも考えらんねえ。 なんも考えたくねえ~。 海。海か。 海でちょっとは気分が変わればいい。 真島もオレも……。

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