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第54話 海②
駐輪場に自転車をとめて駅に着くと、すでに中田と中田の彼女の杏子ちゃん、そしてその妹の桜子 ちゃんが来ていた。
中田と杏子ちゃんは中学の時から付き合っているという貫禄のカップル。
高校二年にしてすでに色々出来上がっている中田の彼女、杏子ちゃん。
今時茶髪に日焼け、バッチリメイク。
90年代に生まれてコギャルとかをやりたかったと言う。
コギャルというよりヤクザの女とか元ヤン感の方が強い気がするけど……。
学校で伝説の不良と言われた兄を持つコワモテの中田とお似合いだった。
「マジーひさしぶりぃ~」
「いや、マジーとか呼ぶの杏子ちゃんだけだから」
「そう?ハイターも久しぶりぃ~」
「いや漂白剤じゃねえから」
このやり取りは鉄板だな。
「彼女できたんだってハイター。やるじゃん。マジーとハイターってデキてるのかと思ってた」
「は?何それ」
「BLBL。桜子、あんた描けるんじゃないこのカップリング」
桜子ちゃんは杏子ちゃんと真反対に黒髪オカッパロング色白の日本人形みたいな子だった。
座敷わらし……。
すんげえなあ、この姉妹真反対にふり切ってんな。
桜子ちゃんはオレたちをじっと見つめてからこう言った。
「灰谷さんが攻め。真島さんが受け。リバでもいいかも」
リバ?何それ。
「みんなウイーッス」
そこに佐藤が走って来た。
「サティ遅い!」
「いや、オレのことサティって言うの杏子ちゃんだけだから」
「いいじゃんサティ。マジーにハイターにサティ」
「それを言うならマジハイサトナカ」
「何その呪文」
「真島と灰谷でマジハイ。佐藤と中田でサトナカ。って桜子ちゃ~ん。今日もカワイイね」
「佐藤さんもカワイイよ」
小さな佐藤ともっと小さい桜子ちゃん。
並ぶとカワイイカップルだった。
「オラ、サトナカじゃなくてナカサトだろう。オレのが前だろ」
「ナカサトはゴロが悪いって~」
ワイワイ話している明日美ちゃんとその友達がやって来た。
「お~明日美ちゃ~ん。ひさしぶりぃ~」
佐藤が嬉しそうに明日美ちゃんに声をかける。
それからひとしきりはじめましての紹介し合いが続き……。
「真島くん。結衣、覚えてないかな?」
「ん?」
明日美ちゃんの後ろに隠れるように、なんか恥ずかしそうにしているのはスラっとしてスレンダーでショートカットのそこそこカワイイ女の子……って。
「あ……」
明日美ちゃんのストーカーもどき事件の時にいっしょにいた子だった。
オレ、家まで送って行ったんだった。
「こんちは」
「こんにちは。この前はありがとうございました」
「ああ、別に。大したことじゃないし。結衣ちゃんも大変だったね」
「ううん、明日美に比べればあたしなんか全然」
そうか、あの時の子……。
結衣ちゃん。そう言えばそんな名前だったような……。
なんだかモジモジしている。
オレのこと気になってるんだっけ?
きっとなんかすんげえいいようにイメージされてんだろうな。
まあいいけど。
と、こんな感じで引き合わされた。
灰谷はと言えば自分の彼女の友達だってのに、まったくフォローなし。
ああそうか何も聞かねえんだったっけか。
もしかして、暗に女と付き合ってみろってことかなあ。
そういう……。
ん~。
電車に揺られて海へ。
熟年夫婦のフルムーンみたいな中田と杏子ちゃん。
その向かいに付き合いたての中学生みたいな佐藤と桜子ちゃん。
すんげえ対比。
一方こっちはと言えば、そこそこ落ち着いた美男美女カップルの灰谷と明日美ちゃん。
んで、即席カップルのオレと結衣ちゃん。
電車の中では、もうめんどくさい話のオンパレード。
「真島くん彼女いないんだよね」
「うん」
だから明日美ちゃんその子連れてきたんじゃねえの?
「なんで~理想が高いとか」
「べつに~。ないよ理想なんて。人間関係なんて現実じゃん。いっしょにいて楽しい子なら」
「あとは?」
「あ~料理できるとありがたいかも」
「真島くんしないの?」
「ん~うち母ちゃんがそういうの得意だから」
「結衣も料理得意だよね」
「得意じゃないよ。普通だよ」
「へえ~得意料理って何?」
「ええとお菓子とかは得意かな」
タルい。
退屈で死ぬわ。
んでも、一応ヘラヘラと話はする。
社交性はあるからね、オレ。
それに比べて灰谷、窓の外をムスッと見つめて、ほぼしゃべんねえ。
オレに女を紹介するならオマエが盛り上げろっつうんだよ。
しかしエライもんでそんな灰谷を気にした様子もなく、時々話しかけ、結衣ちゃんとオレに話題を振りつつ話をすすめる明日美ちゃん。
相変わらず頭の回転が早いし、センスも良い。
逆に言えば明日美ちゃんだから灰谷と付き合えてんだなきっと。
いや、灰谷だって明日美ちゃんと二人でいる時は違うんだろう。
街中でキスとかしちゃうんだし……。
自分の傷を自分でエグる。
Mっ気あんのかな、オレ。
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