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第55話 海③

夏の海は……暑い。 焼けつく砂浜。 照り返す日差し。 あふれる人々。 もう一度言う。 暑い! 海つったって、夏の海なんてイモ洗いだ。 人人人。 女子達は海の家で着替え中。 場所取りつったって人と人の間に割りこむ感じ。 落ち着かねえ~。 男子でビーチパラソルを立ててビニールシート敷いて場所を確保する。 佐藤がTシャツと短パンを脱ぎ捨てると「う~みぃ~」と叫んで走っていった。 ザブンと波に突っこんで顔を出して笑った。 小学生……。 すいか割りしたいとか言い出しそう。 中田はさっそくサンオイルをカラダに塗りまくっている。 遮光性の強いミラーサングラスをかけ、バキバキに鍛えた細マッチョにブーメランパンツ。 AV男優か! 「ヘイブラザー。それじゃオレは一足お先に南国リゾートに行かせてもらうぜ。ワッツアップ」 訳のわからないことを言って、イヤホンを耳に突っこんで横になった。 イヤホンからはシャカシャカと音がもれている。 ん~。 オレはと言えば日焼け止めをカラダにせっせと塗りながらサングラス越しに灰谷のカラダを盗み見る。 海パン一枚になった灰谷は腰に手を当てて立ち、海を見つめていた。 いや、見ちゃうでしょ。そりゃ見るでしょ。 裸に近い姿だよ。 灰谷の体はガッシリして、もう男のカラダって感じだった。 背が高くて頭小さくて手足が長い。 でもつくとこにはちゃんと筋肉がついてる。 もともと着ヤセするタイプなんだよな。 あれに比べりゃあオレなんかはただのガリガリ。 広い肩。肩甲骨や腕のラインに背中。 そしてケツ。ケツケツ。しまってんなあ。 たまんねえ。 モヤリとする。 ヤバイ。 心頭滅却。スイッチオフ。 色即是空 空即是色。 オレは出来る子。 すると、オレの雑念パワーを感じ取ったのか灰谷が振り向いた。 乳首。締まった腹。へそ。 それから前のふくら……。 やめろオレ。 「オマエ、女子か?」 隣りに腰を下ろして灰谷が言う。 「あ?」 色が白いオレは、陽に焼きすぎると黒くならずに真っ赤になってしまう。 日焼け止め必須なのだ。 薄いパーカーも頭からかぶっていた。 「赤くなるんだよ」 「知ってるよ」 佐藤が帰ってきた。 「女子まだかなあ~」 「そのうち来んだろ」 「おっ♪」 「おまたせ~」と先に現れたのは杏子ちゃんと桜子ちゃん姉妹。 スレンダーなカラダに胸だけボーン。 原色ビキニの杏子ちゃん。 焼いた黒い肌によく似合っていた。 健康な色気がある。 「あれ?祐介もう寝ちゃってるの?おーい」 中田を起こしにかかった。 一方スクール水着の桜子ちゃん。 色白おかっぱ、胸はまだ発展途上だけど恥ずかしそうにしている姿は、まさに佐藤のドストライクだ。 見ればヨダレを垂らさんばかりだった。 「桜子ちゃん。カワイイね。カワイイね。あ~真島、見るなよ桜子ちゃんの水着」 「わかったわかった。見ねえよ」 でも、さっきからなんだろう。 灰谷の水着もそうだけど。 女の子の水着ってテンション上がる。 布面積が少ないと上がるよね。 灰谷はどんな顔してんのかなと見れば、ん?なんか見つめてる? 見つめる先から来るのは結衣ちゃんと明日美ちゃん? まるでタレントをファンから守るマネージャーみたいに結衣ちゃんが自分の背に明日美ちゃんを隠すように歩いてくる。 寄ってくる男たちの数がハンパない。 なかなかこっちにたどり着かない。 「灰谷、オマエ行ってやれよ」 「ああ」 灰谷が行く。その堂々とした後姿。 王子様登場。 みるみる男が減っていく。 王子は姫の手をとって。 陽の光の下で手をつないで歩く二人の姿はキラキラしてまぶしかった。 ……胸がチクリと痛んだ。 「大変だったね」 先に着いた結衣ちゃんに声をかけた。 「大丈夫。慣れてるから。灰谷くん来てくれたし」 あらら、そんなこと笑顔で言っちゃうんだ。 なんかケナゲだな。 結衣ちゃんは胸はないけどスレンダーなカラダに長い手足、新体操の選手みたいな感じで凛としてさわやかだった。 「結衣、ごめんね」 「いいよ明日美。大丈夫」 明日美ちゃんは白い肌に白いワンピース。 んで、上にパーカー羽織ってるけど隠せない爆乳。 グラビアアイドルの撮休か!と言った感じだった。 佐藤がチラチラ見ながら鼻の下を伸ばす。 桜子ちゃんにバレるぞ。 灰谷はと見れば、ポーカーフェイス。 この水着姿見ても? ああ。つうか水着なしのも見てんだもんね。 慣れてるのか。 そうか。そうだよな。 なんだか気が沈む。 「う~い。海行こうぜ海~」 肌を焼いてる中田を置いて海海ってんで皆、海へGO。 キャッキャッ。 青春だなあ。 オレは行かないけどね。 「真島~。来ないの~」 佐藤が呼んでくれるけど。 「あ~荷物番してるわ~行ってきな~」 チャプチャプ水に浸かってみんな楽しそう。 女の子は女の子で固まって。 波が来るたびキャーキャー言ってる。 灰谷は佐藤と沖に向かって泳いでる。 大丈夫かあいつら。 中田はカラダをテカテカさせて爆睡中。 服屋のバイトで疲れてるんだなきっと。 つうか暑い。 汗ダラダラ出るし。 苦行だよ苦行。 熱風。 ドライヤーの中にいるみたい。 あ~。暑い。暑い。暑い。暑い~。 なんか、壊れてきたオレ。暑さで?海で?水着で? なんかもうようわから~ん。つうかあっちぃ~。 なんも考えられない。 ……ない。 ……ない。 ……な……い……。 ……ぐー……。 「冷た!」 って何これ?なんかシュワシュワベタベタしたものが頭から顔に……。 顔を上げれば佐藤が少し離れて空のペットボトルを振っている。 「真島~こっちゃこ~い」 あいつ、炭酸かけやがったな。 「佐藤てんめえこの」 オレは全速力で追っかけて、佐藤の背中にドロップキック。 海に沈めた。 こうなりゃヤケだ。 杏子ちゃん桜子ちゃん明日美ちゃん結衣ちゃん。 波打ち際でチャプチャプしてたのを次々引っつかんで海の中に投げ飛ばす。 キャーキャー。 灰谷オマエもだ。おりゃっ。 と思ったら反対に投げ飛ばされる。 うお~。 海の中、気持ちい~。 しょっぺ~。 はあ~。 海ぃ~。 眠りこけてる中田をオレ、佐藤、中田で担ぎ上げる。 まだ起きねえ。 だもんでそのまんま波打ち際まで運ぶとゆさゆさ揺すってから海ん中にドーン。 パニクった中田が海から顔を出す。 まるで黒いタコ……。 オレら大笑い。 キャッキャキャッキャと遊び。 いやだと言っていた割には楽しんでしまった。

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