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第65話 ボーイズトーク
海に行ったメンバーで集まってオレんちで焼き肉をやることになった。
父ちゃん母ちゃんは法事で明日までいない。
買い物行ってからってんでファミレスで待ち合わせ。
オレが一番最後だったみたいだ。
「真島~」
「真島く~ん」
オレの姿を見つけた佐藤と結衣ちゃんが同時に手を振った。
なぜか男子女子別々のテーブルに分かれて座っている
オレはまず女子のテーブルに顔を出す。
「チイーッス」
「真島くん、遅~い」
結衣ちゃんが唇を尖らせた。
「ごめんごめん」
結衣ちゃんの頭をグリグリする。
「マジー遅いわ~。あ、三千円ね。ここの支払いは別だからね」
「ウ~イ。三千円」
みんなから集めたお金をテーブルに並べて腕組みして、まるでテキ屋の元締めみたいな中田の彼女杏子ちゃん。
「こんにちは」
「ウイッス」
杏子ちゃんの隣には佐藤の彼女で京子ちゃんの妹の桜子ちゃん。
ミルクをストローでチューチュー飲んだ。
ん~ミルクか。育てよ乳。
そんで、灰谷の……明日美ちゃん。
「真島くん、久しぶり。海以来だね」
「だね~」
ニコリ~か。
会社帰りのお父さんを癒しちゃような笑顔だった。
「でも結衣からいつも話を聞いてるせいか、久しぶりって感じ全然しないけど」
「そう?明日美ちゃんにいつも何話してんの結衣ちゃん」
そう言うと二人は意味ありげに目と目を合わせて微笑んだ。
「内緒。ね、明日美」
「うん」
「怖いな~」
「あたしがいっつもノロケられてるんだよ。結衣に」
「やめてよ明日美」
「ヒューヒュー。マジーと結衣ちゃん、仲良さそうじゃん」
「仲いいよ。ねえ、結衣ちゃん」
言いながらオレは結衣ちゃんの耳たぶをいじる。
「カワイイのしてんね、結衣ちゃん」
「誰かさんとお揃いなんです~。ね~」
「ね~」
今度はオレと結衣ちゃんが目と目を合わせて微笑む番だった。
「ペアピアスか。やるじゃんマジー。つうか暑苦しいからイチャイチャしない!」
「はいはい。ところでなんでアイツらと席離れてんの?」
「ん~海以来だからガールズトークしてたの」
「ガールズトーク。それはそれは」
「おーい真島~」
男子が集まるテーブルから佐藤が呼んでいる。
「んじゃあ、オレ、あっちでボーイズトークして来るわ」
「いま買い物リスト作ってるから。もうちょっと涼んでから出ようってみんなに言っといて」
「ほ~い」
「真島くん、あとでね」
「ん」
オレはもう一度結衣ちゃんの頭をグリグリっと撫でた。
結衣ちゃんが嬉しそうな顔をした。
「ウイーッス」
女子と違ってちょこちょこ顔を合わせているせいで、まったりしている男子テーブル。
「ウイーッス」と返事はしたけど灰谷も中田もそれぞれスマホの画面から目を離さない。
オレは空いていた灰谷の横にいつものように腰を下ろす。
「買い物リスト作ってるから、もうちょっとしてから出ようってさ、杏子ちゃんが」
「ウーイ」
「真島真島、なんか結衣ちゃん、前に海で会った時よりカワイくなってね?」
鼻息の荒い佐藤。
「そっか?明日美ちゃんの方がカワイイでしょ。な、灰谷」
オレは灰谷に軽くブチこむ。
灰谷はスマホの画面から顔を上げオレをチラリと見ると何も言わずにまた視線を戻した。
なんか言えよ。
「いやいや、明日美ちゃんはそりゃカワイイよ。でもそれはさ、アイドルとか女優とかそういうのでさ。結衣ちゃんのは、なんちゅーの?こう~特に意識はしてなかったけど、友達と付き合い始めたら急にカワイく見えちゃったみたいなさ」
「そのまんまじゃん」
「るせえな中田。でも、そう思わない?」
「思った」
「だろ?」
カワイくなったねえ~。
女子のテーブルに目をやると結衣ちゃんがオレに手を振るからオレもふり返して、ついでに投げキッスをする。
キャーと女の子たちから歓声だか悲鳴だかが上がる。
「真島、オマエそんなことするやつだったっけ」
「受けてんじゃん。何注文しよっかな」
オレはメニューを広げた。
「あ~真島を見る結衣ちゃんの目がエロい。もしかしてオマエらもう……」
「ふふん」
「真島~このドスケベ!」
黙って手を上げた中田とハイタッチする。
「イエ~イ」
「イエ~イ」
「だから結衣ちゃんの目が濡れ濡れなんだ~」
過剰反応する佐藤とは対称的に灰谷のヤツは……てんで無反応だな。
「ああ。オレうまいからね」
「何何何がうまいんだよ。つうか何?その上から目線」
「簡単だよ佐藤。まずキスだろ」
「キスか」
「唇合わせるだけじゃダメだよ。口開けさせて、舌入れて~舐めて~吸って~」
「お~ディープディープ?」
「んで、耳弱いだろ。んで首。そんでオマエの好きな~」
「先生~真島くんの手つきがスケベなんですけど~」
急に灰谷が立ち上がった。
「何?灰谷。どした?」
「トイレ」
ちょっと仏頂面して灰谷が答えた。
オレは立ち上がって灰谷を通しながらささやく。
「早く帰ってこいよ。こっからがいいとこだから」
灰谷は表情を変えない。
『あきれた』とでも書いてあるような背中が遠ざかって行く。
「なんだよ、つまんねえなあいつ。童貞でもねえのに」
「悪かったな童貞で!って……え~あ~灰谷と明日美ちゃんって……え~」
「そりゃあるだろ。とーぜん」
「だよな~。だよね~。真島もチェリーボーイズ抜けちゃったし、オレだけね~」
「落ちこむな佐藤。桜子ちゃんいるじゃん」
「うん!あれ?オマエ、あれはどうしたよ」
声を潜めて佐藤が聞く。
「あれって?」
「セフレ」
「ん~。いまちょっとお休み中」
「よし、そのままお休みしてろ。結衣ちゃんに悪い」
「何にしよっかな」
オレはメニューを眺める。
「真島、オマエなんで急に女の話とか始めたわけ?」
中田がスマホの画面から目を離さずに言う。
「なんで?佐藤に聞かせてやろうと思ってさ」
「ほう~」
「何何どういうこと?」
「オマエはいいから佐藤。ステイ」
「犬じゃねえぞ」
「つうか、あんまり灰谷いじめんなよ。それから……」
中田がオレの目を覗きこんで言う。
「オマエもあんまりムリすんなよ」
「え?何何?なんのこと?」
「だから佐藤、オマエはステイ」
「犬じゃねえから」
ムリ?
してねえよ。ムリなんて。
ムリどころか、結衣ちゃんと仲良く付き合ってるし。
あの海以来、灰谷とはほとんど口をきいてねえし。
そんな風に中田には見えんのかな?
「ディープ。ディープかぁ~」
「佐藤、言っとくけど、桜子ちゃんはまだ十五だ。手ぇ出したらブッ殺す」
「いつまで我慢すればいいんだよう」
「二十歳」
「あと五年?長すぎるよ~昭和か?昭和初期か?」
目の前で中田と佐藤による『昭和のガンコお父さんと娘の彼氏コント』が始まった。
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