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第77話 公園で会った人②

「会いたいけど会ってない人は?」 オレの問いに男の顔が少し曇った。 「……いるね」 「会えなくても離れてても友達なんすかね」 「ん~どうだろう。でも、あいつどうしてるかなって思ったら友だちなんじゃない。そういう時は相手もそう思ってるって気がする」 「そうなのかなあ。……年取った自分なんて想像がつかないな」 「うん、だろうな。なんか十代って永遠に続くみたいに長いからな。今思えば」 オレはちょっとビックリする。 「年取るとそうじゃないの?」 「ああ、あっという間。二十代早かった~。もうすぐ三十だ。きっともっと早い。いや、早さに慣れるって感じかもな」 二十代はあっという間なのか。 あと三年、あと三年やり過ごせば、なんとかなるのかな。 でも、全然想像がつかない。 「早く、年取りたいな。そんで死にたい」 「若者」 男はゆっくりとタバコの煙を吐き出してから言った。 「オレはさ、歳とれば歳とるほど、もっともっと生きたいって思うんだ。なんか愛しいんだよ。生きるってことがさ」 愛しい。 生きることが愛しい? そんなことってあるのかな。 「なんでもいいんだ。朝、目が覚めたら、あ~今日も生きてる、朝メシウメーって思うしさ。昼に吉牛食えば、相変わらず、あ~ウマッ!って思うしさ。あ、食いもんのことばっかりか。ん~、例えば今日みたいに後輩がミスして、取引先に頭下げてる時もさ、あ~オレもこんな時あったなあ~、今じゃこんなミスしねえけど、オレって成長したんだなって思うしさ。それはオレが生きてるから感じることじゃん。んでさ……そうやっていろんな事思いながら、いつか死ぬんだと思う」 男とオレはたがいに黙ったままタバコを吸った。 「あいつも、そう思ってくれるといいんだけどな」 男はボソリと言った。 「え?」 ♪~ オレのスマホが鳴った。 確認したら結衣ちゃんからの無事に家に着いた&おやすみLINEだった。 『おやすみ』と返信する。 「おっ、彼女か?」 「ええ。まあ」 ♪~ 男のスマホも鳴りはじめた。 「オレもだ。帰れコールだな。はい……ん~もう帰るよ~……わかった牛乳と食パンね。うん……甘いもの。アップルパイとかでいい?……わかった……はい……んじゃね。は~い」 男の左手の薬指には指輪があった。 「奥さんすか?」 「うん。はあ~じゃあ帰るか。ほら」 男は携帯灰皿をオレに差し出した。 「ポイ捨てはダメだ」 「はい」 「あんま吸い過ぎんなよ未成年。じゃあな」 男の笑った顔を見て、あれ?と思った。 この顔どっかで見たことある。どこだっけ。 つい最近。ん~? あ!気がついたときには遅かった。 男は公園脇に止めた車に乗りこみ出て行った後だった。 今の人、城島さんの写真にいっしょに写っていた人だ! 写真より少し歳はとっていたけど。 多分、城島さんが待ってる人だ。 探しに来たんじゃないか城島さんを。 というか城島さん、ちゃんと会えたのかな?

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