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第91話 戸惑いの佐藤
学校帰り、マジハイサトナカでファミレスに行った。
みんなカネを持っていなかったので、ドリンクバーを頼んで、甘いモノが食べたいという中田の希望でパンケーキを一つ注文した。
「灰谷。この後、付き合ってほしいとこあるんだけど」
「どこ?」
「チャリ見に行きたい」
「チャリ?なんで?カネ貯めてバイク買うんじゃねえの」
「ん~なんか貯まらねえし。とりあえずもう買っておくかと思ってさ。いくらぐらいかな?」
オレは『通学 自転車 値段』でググってみる。
「一万円代から三万円代か。どうしよっかな~」
「いいぜ」
「あ?」
「オレのこと気にしてるんなら。毎朝迎えに行くぐらい別になんともない。もう慣れたし」
「いや~。そういうことじゃなくて。やっぱないと不便じゃん」
「まあな」
「あ、今日、明日美ちゃんとは?」
「ん?いいよ。断るし」
灰谷はすぐにスマホを開いて断りのメッセージを打ちはじめた。
「断わんなくてもいいよ。オレのは別にいつでもいいし」
「いや、いいよ。搾乳はいつでもできる。たまには真島孝行 しないと」
「なんだよ真島こうこうって」
「親孝行ならぬ真島孝行 ?つうか真島孝行 ?」
「タカユキ?」
「孝行って『タカユキ』って読めるじゃん」
「ああ。じゃあ、タカユキってくれ」
「オーケー。今日はオレ、タカユキるわ」
パンケーキを几帳面にナイフとフォークで切り分けていた中田がテーブルに突っぷして顔を伏せたままの佐藤の肩をパシリと叩いた。
「オラ、佐藤。顔上げろって」
「イタっ!」
「オマエ、いつまでそうしてんだよ」
「オマエらヒデエよ。中田も灰谷もさ~。なんでそんなに簡単にいつも通りなんだよ。オレはさ、オレは~」
「ごめんな、佐藤」
オレは言う。
「謝るなよ真島。オレはさ~。オレだってさ~。『なんでもねえよ。真島が男と寝ようが女と寝ようが関係ねえよ』って言いたいよ。でもさ、でも、そう簡単にさ……むぐっ」
中田が佐藤の口にパンケーキを押しこんだ。
「そうだよな、わかるよ童貞くん」
「ほうふぇい言うな」
「え?包茎?」
「中田オマエ……ホントにヤなやつ~~」
もう一回オレは言う。
「ホントにごめんな佐藤」
「だから謝るなって真島」
「じゃあオレ、佐藤にタカユキるわ。バイト代出たらビッグマックおごるわ。好きだろ」
「え~真島、オレの純情を食欲でチャラにしようとするなよ」
純情……?
「できた」
中田がパンケーキをテーブルの真ん中に出す。
トッピングも含めてキレイに四等分されている。
まるで小さなケーキが四つあるみたいだった。
「さすがオシャレ番長」
「さすが杏子ちゃんの彼氏」
「いやあ~マジーにハイター、コレ(小指を立てた)が色々とうるさいもんで。ほら、サティも食べろって」
「う~」
「あっ、ウマっ。ウマいぞサティ」
「ホントだ。ウマいぞサティ」
オレと灰谷が盛り上げる。
「サティ言うなマジハイ。どれ?……うん。まあまあだな」
「シロップもっとかける人~?」
「は~い。って中田そういうことじゃなくて!」
ふう~っと息を吐き出したと思ったら中田が言った。
「佐藤オマエさ、さっきから何をそんなにウダウダしてんだよ。別に真島が男なら誰でもよくて、オマエを犯すって言ってるわけじゃねえだろ。あ、真島ゴメン」
「いや、いいよ。犯さないし」
「犯す犯さないってなんの話だよ~」
「だから、オマエがウダウダしてんのは何に対してウダウダしてんのかって聞いてんだよ」
「オレはだから~」
「言ってみろ」
「う~だから、真島が男とできて……いや、でも女ともできて……だからえーっと……オス猿とオス猿が~ピストンピストン……わかんねえ~。言えたら苦労しねえよ~」
佐藤は頭をかきむしった。
「ごめんな佐藤」
「だから真島は謝るなっての~」
「純粋だもんなサティは」
「純粋」
「純粋」
中田の言葉にオレと灰谷はうなずいた。
「サティ言うな~」
「しょうがねえ、わかった佐藤」
中田が佐藤の肩に腕を回した。
「何がだよ中田」
「桜子 ちゃんのことだ」
「桜子ちゃんが何?」
佐藤がピクリと反応した。
「オレも頭から反対して悪かった。今後はオマエら二人に口出しはしない」
「ホントかよ!」
「ああ。真島にああ言った以上、オマエにも言わねえ」
「おう!やったー」
佐藤のテンションが一気にブチあがった。
「これでオレも、脱・童貞!」
中田の眼尻がピクリとした。
「佐藤、ただ一つだけ言っておく」
「なんだよぅ~同意ならいいんだろ。同意なら」
「オレの兄貴も桜子ちゃんのこと気に入ってるから、そこんとこは忘れるなよ」
「え?伝説の不良。中田のお兄さんが?」
「佐藤、オマエ気をつけろよ~」
「ホントだぜ佐藤。東京湾に浮かばないようにな」
オレと灰谷がチャカす。
「いや、だってお兄さん更生したんじゃ」
「更生はしたけど私怨は別だからな」
「しえん?」
「個人的な恨み」
「オーマイゴッド!」
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