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第92話 久しぶりに二人

中田、佐藤と別れて、超久しぶりに灰谷と二人で出かけた。 自転車屋で自転車を選ぶ。 「真島、決まった?」 「あ~これかなぁ」 「こっちのがいんじゃね?」 「黄色~?ハデだろ」 「でも、目につくから探しやすいじゃん」 「あ~でもな~男は黙ってブラックじゃね」 「何それ?」 その後も、街ブラブラしながら店ひやかして。 服見たり、靴見たり、本屋行ったり。 ゲーセン行ったり。 ――楽しかった。 「ノド乾かねえ?」 「乾いた」 「マックでいっか?」 「うん」 灰谷が買ってきてくれるのを席に座って待つ。 そうそうこんなだったんだ。夏休み前は。 灰谷が明日美ちゃんと付き合うまでは。 こうやって灰谷と二人で遊ぶこと。 二人きりで遊ぶこと。 どうってことない日常で当たり前だって思ってたけど。 それすら当たり前じゃなかったんだな。 「おい。おい真島。お~い」 灰谷が顔の前で手を振っていた。 「あ?なんだよ」 「何ボーっとしてんだよ。ほい、アイスコーヒー」 「ああ。ワリぃ」 灰谷が笑った。 「なんだよ」 「オマエ、昔っから、たまにそうやって一人の世界に入っちゃうよな」 「はあ~そうか?」 「そうだよ」 灰谷がオレの顔を見つめた。 ドキン。 心臓が音をたてた。 ヤバイ。 久々に距離が近いし、一対一で逃げ場がない。 ヤバイ。 赤くなるなオレ。 つうかオレをそんな優しい顔で見るな灰谷。 オレは灰谷が買ってきてくれたアイスコーヒーにクリームを入れてガラガラかき混ぜてチューチュー飲んだ。 「なんか、真島と二人で遊ぶのって久々な気がする」 「おお。そうだな」 「やっぱ、オマエといんのが一番ラクで面白くて楽しいわ」 灰谷の言葉はオレの心にポトリと落ちて波紋のように広がった。 この言葉以上を欲しがるなんて、オレってなんて欲張りなんだろう。 今までどうやって気持ちを抑えてきたっけ? なんか久々でわかんねえ。 でもなんか返さなきゃ。 「クサレ縁だな」 そう言うのがやっとだった。 「おお。そうそうクサレ縁」 嬉しそうに笑う灰谷。 その顔を見たら……。 ああ、ダメだ。 オレ、戻れる気がしない。 ただの親友に。 あんな事あったのに。 いろいろあったのに。 城島さんと別れて、結衣ちゃん傷つけて、母ちゃんに土下座させて。 あげくクラスのやつにバレて。 それなのに……まだオレ、思い切れてない。 いつか……きっと……暴発する。 「真島?」 「あ?」 「どうした。そんな顔して」 「オレ、どんな顔してる?」 「人殺しみたいな顔」 「え?」 気持ちが落ちていく。 「ワリぃ。冗談だったんだけど」 「うん。わかってる」 ヤバイ。灰谷が見てる。 「本当に悪い。大丈夫か」 「え?うん。大丈夫大丈夫。つうか、もうそろそろ帰ろっか」 「え?ああ」 ダメだ。離れないと。保てねえ。 オレはトレーを持って立ち上がった。    分かれ道でチャリを停める。 灰谷は右へオレは左へ。 ここのところ、いつも家まで送ってもらってたから久しぶりだった。 「じゃあな」 「おう」 離れようとしたオレに灰谷が声をかける。 「真島」 「ん?」 「オマエ、本当にもろもろ大丈夫?」 心配そうな顔。 「なんだよもろもろって。大丈夫だよ」 「そっか。ならいいけど」 「今日はタカユキってくれてありがとな」 「おう。んじゃな」 オレの肩をポンポンと叩いて灰谷が行く。 また例によって例のごとく、こっちを見ないで手を振って。 そしてオレは、人生で何回目になるんだろう。 灰谷の姿が角を曲がって見えなくなるまで眺め続けた。

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