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第101話 灰谷が聞いた名前

灰谷はのどの乾きを覚えて目を覚ました。 水……あ~真島の部屋か。 隣りの布団に真島の姿はなかった。 まだやってるのかなあいつ。 ついでに真島に声をかけようと思った。 真島の部屋のドアを開けようとして、灰谷は聞いた。 「ん……んっ……んっ……」 くぐもるような湿った声。 真島が……泣いてる? いや……これは……というより……。 真島が一人でシテる? 結衣ちゃんにしゃぶられていた時の真島の姿が蘇る。 こりゃあまた……。 灰谷がそっと引き返そうと思った時だった。 「……はい……たに…」 え? 一瞬耳を疑った。 いま、なんて言った? 灰谷は耳をすます。 口を何かに押しつけているようでハッキリとは聞こえない。 でも……。 『灰……谷……灰谷……灰谷……』 自分の名前だった。 真島がオレの名前呼びながらシテる? それって? え?え? 頭が混乱した灰谷は客間に戻り、布団に潜りこんだ。 心臓がバクバクしていた。 真島、オマエ、もしかしてオレのこと……。 いやいや違うだろ? でも。 灰谷の中ですべての事がつながった気がした。 あの暑い夏の坂道の日から、さっきまで。 真島が何を思い、何を悩んできたのか。 明日美から告白されたと言った時。 『オレ、好きなやつと付き合いたい。断る理由がないとかヤなんだよな』 結衣と付き合い始めた時。 『好きなやつと付き合えねえんだからしょうがないだろ』 城島との事も。 『付き合ってるっていうんじゃなくて、本当にセフレっつうか。カラダだけっつうか』 ――そうなのか? そう……だよな? あの夏の日も。 さっきも。 なんで気がつかなかったんだろうオレ。 真島、オマエの目はいつだってオレを見ていたのに。 で?オレはどうするんだ。 それ知ってオレはどうするんだ。 灰谷は布団の中でゴロゴロと転げ回った。 ……なんだこれ。 ……なんだこれ。 * 「灰谷、灰谷って」 「んぁ?」 灰谷が目を開けると真島が見下ろしていた。 「うわっ」 「いつまで寝てんだよオマエ。ゴミ捨てるから手伝ってくれよ」 オレ……いつの間にか寝てた? つうか真島! 「なんだよ。手伝ってくれるって言ったろ。いっぱいあんだから」 「……おお」 「とりあえずヨダレぬぐって顔洗ってこいよ。捨て終わったら母ちゃんが朝ごはん用意してっから」 「……」 「灰谷、起きたか」 真島が顔を近づけた。 「うわっ。起きたって」 「なんだよオマエ。寝ぼけてんの?回収車来ちまうから急げよ」 「おお」 あれ?昨日のあれって……夢?いや、夢じゃないだろう。 『灰谷……んっ……灰谷……』 真島の声を思い出した。 オレ……。

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