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第107話 母・久子の告白①

真島、今頃どこで何してるんだろう。 自宅のベランダで風呂上がりのペプシを飲みながら灰谷は思った。 旅……って。 未成年が一人でどっか泊まれんのか? ホテル? カラオケ?マン喫? ダメだろ確か。 野宿……。 ムリだなアイツ。 本人否定するけど、ヘンなとこちょっとだけ潔癖入ってるし。 虫もダメだし。 つうか、枕変わると寝れねえじゃん。 修学旅行とかでも一人寝れなくていつもフラフラになってたし。 それに環境変わるとすぐ腹壊すし。 真島のことだから、どっか泊まるとこ、確保してるとは思うんだけど。 つうか……なんでオレに黙って行くわけ? 灰谷が一番引っかかっているのはそこだった。 いや、まあ、きっとオレの事があるんだとは思うんだけど。 それにしたって……。 真島の自分への気持ちを知ってから、まだ一日しか経っていなかった。 オレは……どうする? 真島に何をしてやれる? 時間が必要なのは自分もかもしれない。 ムダだとは思ったが一応スマホを確認してみた。 案の定、真島からの着信はないし、LINEの既読もついてなかった。 真島……。 オマエ、一人でどこで何してる? ピー。 部屋のロックが開く音がした。 「ただいま健二~お寿司買って来た~」 数日ぶりに顔を見る母、久子だった。 めずらしくかなり酒を飲んでいるらしく、フラフラと足取りが怪しい。 「おかえり。何?危ないよ」 「ん~ケンちゃんただいま~」 抱きついてきて、胸にグリグリと顔を押しつけて来た。 「あ~酒くせえし、口紅付くだろ」 「何よ~。口紅ぐらい~。じゃあこうだ」 頬にブチューっとキスをする。 「やめろ。酔っぱらい」 「酔っぱらいで~す。ほら、お寿司。お寿司食べなさい」 「メシもう食ったよ」 「何よ~せっかく高いの買ってきたんだから、食べなさいよ~。若いんだからイケるでしょ~」 「あ~はいはい」 「その前に水。水頂戴」 冷蔵庫からペットボトルを出して渡すと久子はグビグビと美味しそうに飲んだ。 「お風呂入ってくる」 「酔っぱらって風呂危ないよ」 「じゃあ、シャワー」 服を脱ぎ捨てながら、久子はバスルームに向かった。 「たく……」 酔っぱらって、おまけにお土産に寿司か。 こりゃあ、すんげえいいことがあったか、何か話しにくいことがあるかどっちかだな。 床に落ちた服を拾い集めながら、灰谷はそう予想した。 「あ~ビール、ウマー」 ダルダルのパジャマにシャワー上がりのノーメイク、立膝で缶ビールを煽る久子は真島がよく言う天海祐希みたいなキリッとしたキャリアウーマン姿もどこへやらだった。 「お寿司どう?」 「美味いよ」 「こうやってちゃんと話すの久しぶりね、健二」 「だな」 「あんた、彼女できたでしょ」 久子は灰谷の目を覗きこんだ。 「……」 「紹介しなさいよ」 「時間ねえじゃん」 「それくらい作るわよ」 「……別れた」 「は?」 「だから別れた」 「チッ……これかだから男は……」 「なんでそうなるんだよ」 「どうせあんた、告白されて、断る理由もないからいいかなあぐらいで付き合ったでしょ」 さすが母親……。 灰谷の視線が泳いだ。 「ほら図星!」 「うるせえな」 「真島くんは?」 「は?」 「なんか言ってた?」 「真島が何?」 「ん~まあいいんだけど。ちょっと気になって」 久子はテーブルの縁をキレイに塗られた爪でカリカリと掻いた。 「なんかあった?」 「バレたか」 「バレるよ。何年母ちゃんの息子やってると思ってんだよ」 「うん。報告」 久子はビールの缶を机に置くと、姿勢を正した。 「あたし、会社辞めて独立する。それで新しく自分で会社立ち上げる」 「うん。わかった」 灰谷はあっさり言うと寿司を口に放りこんだ。 「それだけ?」 「何?頑張ってって言った方がいい?今でも十分頑張ってるのに?」 「健二……。ありがとう。それからね、もう一つ」 「うん」 「あたし、結婚する」 「え?」 結婚?灰谷は一瞬その言葉を理解できなかった。 「で、その相手なんだけど。峰岸って覚えてる?」 「峰岸?」 一度、酔っ払った母を送ってきた会社の部下の人が確か峰岸と名乗ったような……。 でも、その人……。 「そう。女なの」

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