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第109話 一人①

ふわっ。 暗っ。 え? ここ? え? 目覚めたら真っ暗で、一瞬頭が混乱する。 暗すぎて自分の手も見えない。 ホントに真っ暗。 ここ? え? 落ち着けオレ。 起き上がろうとしたら、あ~カラダが痛い。 ん?床で寝てた? あ~そっか。 たしかあっちがベランダの方。 見当をつけて床を這い、手を伸ばす。 シャッ。 カーテンが開いて外の明かりが入ってくる。 遮光カーテンだったんだ。 あふぅ~。 オレはあくびをしながら立ち上がり、天井から吊り下がっている照明のヒモを引っ張った。 部屋が明るくなる。 そうだった。 ここは城島さんの部屋だったっけ。 あふぅ~。 オレはまた一つあくびをして、床に腰を下ろす。 いま、何時だろう。 外暗いから七時ぐらい? この部屋には時計がない。 空っぽの部屋。 もともと物がほとんどなかったけど、今はホントに何もない。 荷物は全部処分したらしい。 電気は使えるままにしてくれていたから、エアコンは使えた。 ありがたいな。 この暑さで扇風機もエアコンもなしじゃ、多分また熱中症だ。 昨日、城島さんからもらったメッセージには追伸があった。 『もし君が、どこにも行くところがないのなら、あの部屋を使っていい。 実はあのアパートは近々取り壊されることになっている。 今月いっぱいまでは借りたままにしておくから。 オレにできるのはこんな事くらいだけど。 真島くん、元気で。』 一旦リセットしようと思っていた。 今までと違うところに一人で少しの間、身を置いてみたいと。 そこにまるでオレの行動を見透かしているみたいな城島さんのメッセージ。 ここはノッてみるしかない。 で、バイトのシフトの代わりを見つけて、店に電話して、その夜、親父が帰って来た時に話をした。 一人で少し旅に出たいと。 母ちゃんは反対したけど、案外あっさり親父は許してくれた。 翌日の昼、つまり今日だ。 オレはチャリで家を出るとそのままここに来た。 多分、自宅から五キロも離れてないと思う。 着いた途端、爆睡。 まあ断捨離とかで二日くらいまともに寝てなかったからな。 はあ~。 あらためて室内を見渡す。 フローリングのワンルーム。 作り付けの小さなキッチン。 窓にはグレーの遮光カーテン。 ドアが開け放たれたままのクローゼットの中は空っぽ。 ガラ~ンって文字が空間に浮かんでそうだ。 なんの気配もしない。 オレは膝を抱えてカラダを揺らした。 なあんか、落ち着かねえ~。 考えてみればオレ、今までまるっきりの一人って、ほとんどなかったかもしれない。 いや、一人っ子だから部屋の中に一人っちゃあ一人だけど、家には母ちゃんや親父がいるわけだし。 この間みたいに年に何回か法事に行ったり旅行に行ったりで家を開けることはあったけど。 そんな時は必ず灰谷がいたし、佐藤や中田も遊びに来てたし。 逆に言えば、母ちゃんが仕事でほとんど家にいない灰谷はオレんちに来てる時以外は、ほぼ家に一人なんだよな。 こんな感じ? ん~。 カタッ。 うお~。何何? ちょっとした物音にもビクビクしてしまう。 きっとカラダがどっか緊張してるんだな。 グウ~。 腹が鳴った。 そう言えば朝メシ食ったきり。 腹減った~。 コンビニ……行くか。 背負ってきたリュックから財布を取り出す。 リュックの中身は最低限の着替えとタオルぐらいなもの。 今回、一つだけ自分にルールを決めた。 家に帰るまで誰とも連絡を取らない。 すなわちスマホの電源は落とす。 本当に一人に一時的になってみる……。 カギは……かけなくていいんだよな。 サイフ一つ持ってフラフラと城島さんの部屋を出た。

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