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第114話 虹

「もしかして、真島先輩の彼女ですか?」 店に戻ると友樹が話しかけてきた。 「いや」 「元カノとか?」 「…ああ」 「そうですか。カワイイ人ですね。モテるんですね真島先輩」 「……」 「ちなみに灰谷先輩は彼女いるんですか」 「いないよ」 「そうですか。じゃあボク、立候補しようかな」 「え?」 灰谷は驚いて友樹の顔を見つめた。 友樹はいたずらっぽい目で見つめ返してきた。 「冗談ですよ」 「……ああ」 「じゃあボク、休憩頂きま~す」 「あ、行ってらっしゃい」 「はあ~」 レジに一人になると灰谷は深いため息をついた。 あんな冗談にも反応してしまうとは……。 真島の事といい、母ちゃんの事といい、なんかここ数日、オレの人生カオスだ。 店に客はいなかった。 あれ?雨やんだ? 灰谷は店の外に出て空を見上げた。 やっぱ通り雨だったんだな。 あっちの方もう明るいわ。 ん?あ!あれ。 ビルとビルの谷間の空にボワッとした半円がかかっていた。 今にも消えてしまいそうな淡い色の帯。 ……虹? ……虹じゃね? お~虹だわ~。 めったに見ることがないから認識するまでに時間がかかった。 紫青黄赤のグラデーション。 お~虹かあ~。 めずらし~。 (あっ、虹虹。虹出てる) (ウソウソ。すごくな~い) (ミキに教えてあげよう) (早く早く) (消えちゃう消えちゃう) 店先で雨宿りしていた同い年ぐらいの女の子達がスマホで電話をかけたり、写真を撮ったりしている。 灰谷はポケットからスマホを取り出し、電話をかけた。 あ~でもありゃあホント、すぐ消えちゃうな。 早く出ろ真島。 ブツッ……。 「真島……」 『お客様のおかけになった電話番号は電波の届かない場所……』 あ~そっか。 あいつ、連絡つかないんだった。 それにこの虹が見えるような所にいるのかも……。 灰谷は電話を切って、昨日から何度もしているようにメッセージを確認してみた。 灰谷が真島に送ったメッセージに既読は一つもついていなかった。 もちろん着信もない。 灰谷は空を見上げるとカメラのマークをタップして消えかけている虹を写し、送信ボタンを押した。 そしてメッセージを打ちこんだ。 『雨上がり。虹。』送信。 真島もどっかで見てんのかなあ。 そんなことを思いながら灰谷は虹が消えるまで見つめていた。

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