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第129話 ん~尊いな

「ただいま~」 コピーの束を抱えて佐藤がファミレスに帰ってきた。 「おう、お疲れ」 「お疲れ佐藤。暑かっただろ。まあ一杯ぐっとやれよ」 中田が差し出したコーラのグラスを受け取ると佐藤は一気に飲み干した。 「プハーっ。あー生き返った」 「随分掛かったな」 「いやあ、そこのコンビニのコピー機が塞がっててさ。で、真島んちの方のコンビニまで行ってきた」 「あっちまで?大変だったな」 「オレ腹減ったよ」 「何時間いるオレら」 中田が首をぐるぐると回した。 灰谷がスマホで時間を確認する。 「あ~四時間?五時間か」 「頑張ってんなオレら」 灰谷は大きく伸びをして店内を見回した。 集中していたので気がつかなかったが、ファミレスの中は午後のガランとしたテーブルから一転、ディナータイムになったようで席が埋まり始めていた。 「ドリンクバーで粘るの限界じゃね?もうメシ食おうよ」 「だな、ちょっと休憩してメシにするか」 「やった!」 みんなでメニューを広げた。 「なんにしよっかなあ。あ、灰谷、あのコンビニだろ?アメリカンドッグがうまいの」 「うん」 「何それ?」 「中田知らないっけ?あそこな、アメリカンドッグが異常にウマイんだよ」 「オマエらのバイト先より?」 「うん」 「チェーン店だろ?」 「いや、なんだけどさ。あそこは違うんだよ。真島が一時期すんげえハマって毎日食べててさ。つられてオレも」 「へえ。何が違うんだろうな」 「油かもな」 「油?」 「そうだ灰谷、真島のチャリの色って緑だったよな」 「え?」 佐藤が急に変な事を言い出した。 「黒だよ」 「黒?あれ?蛍光っぽいグリーンじゃなかったっけ」 「それはパクられる前だよ。この間買ったのは黒」 「黒?」 「男は黙ってブラックじゃねって言ってたわ」 「……」 「どうした佐藤」 「あのな、コンビニ入る時、チラッと見かけた黒いチャリの後ろ姿が真島にちょっと似ててさ」 灰谷が立ち上がった。 「どこだ。コンビニからどっちの方に行った」 「え?ええと、だからあの先の…公園の方。え、行くの?いやでも、コピーする前だからかなり時間経ってるぞ」 「落ち着け灰谷」 今にも飛び出しそうな灰谷に中田が声を掛けた。 「まずは連絡ないか確認してみろ。普通に帰ってきてるのかもしれないだろ」 灰谷はスマホを手に取った。 「既読ついてる?」 「いや」 灰谷は真島に電話を掛けた。 『お客様のおかけになった電話番号は……』 おなじみのアナウンスが流れた。 「入ってねえの電源」  「ああ」 灰谷は席に腰を下ろした。 「やっぱ見間違いかなあ」 「……」 バシッ! 中田がいきなり灰谷の背中を叩いた。 「イタッ。何すんだよ」 「灰谷、オマエ行って来い」 「え?」 「真島、探して来い」 「……」 「んなこと言ったって中田~、電話にも出ないんだから、どこにいるかわかんないじゃん」 「いいから行け。迎えに行って来い」 「……わかった」 灰谷が立ち上がった。 「あ、じゃあ灰谷、チャリのカギ。それとカバン、一応カバン持ってけ」 「おう」 「そんで後は、サトナカにまかせとけ」 灰谷は中田と佐藤を見ると、ニッと笑って飛び出して行った。 「……中田」 「ん~?何食う?」 「オマエだけカッコよすぎねえ」 「何が?」 「『いいから行け。迎えに行って来い』とかさ」 「だな。背中押しちゃった。そういう佐藤だって『サトナカにまかせとけ』とか言ってたじゃん」 「それぐらい言わせろよ~。つうか中田、ホントにマジハイ好きだよな」 「ん~尊いな」 腕組みした中田は小さくうなずいた。

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