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第131話 人を想う
城島さんの部屋のマットレスの上でオレは冷えたアメリカンドッグをかじった。
アメリカンドッグはウマイけど、さすがに食べすぎて飽きてきた。
置いといてもしょうがないんで惰性で食べる。
コンビニのメシ、どうもなあ。
オムライスもそうだけど、母ちゃんの料理が食べたいと思った。
あったかい物食べたいなあ。
炊きたてのご飯に甘い卵焼きとか。
目玉焼きでもいいやこの際。
はあ~。
つまんねえなあ。
一人でやれる事はやったような気がしている。
実際なんにもしてないんだけど。
海行って城島さんの部屋でダラダラしてまた色々グチャグチャ考えてただけじゃん。
ところでオレ、何日、人と話してないんだろう。
……三日?四日?
スゴイな。初めてじゃね?
まあ自分で選んだんだけど。
一人の時間は楽しい。
でもな……。
昼間はまだいいんだけど夜がな。
なんか淋しいなあって思う。
人のいる安心感。
同じ建物に人がいる安心感って確かにあるよな。
母ちゃん、親父、心配してるかな。
中田や佐藤はどうしてるだろう。
あ~課題やってるかもしれないな。
オレ、バックレちゃったからな。
早く合流しねえと。
結衣ちゃんは……。
いや、オレにそんな事考える資格はない。
大事なものを捨ててみて。
いや、まあ仮にだけど。
一人になって、感じたのは、いつもの当たり前は全然当たり前なんかじゃないんだって事だ。
住むところがあるのも、エアコンが使えるのも、冷蔵庫があるのも。
美味しいメシが出てくるのも。カゴに突っ込んでおけば洗濯物が畳まれて置いてあるのも。
家に人がいる安心感も。
みんな親父と母ちゃんが与えてくれていたものだった。
オレが一人でいて淋しいと思った事がないのや、一人が楽しいと思うのは、淋しいと少しでも思えば遊んでくれる灰谷や中田や佐藤がいたからで。
人を想う。
本当だね城島さん、人は人を想わずにはいられない生き物だね。
一人でいても、オレはオレの大切な人たちのことを想う。
出会った人達を想う。
そうしないと生きていられないからだ、きっと。
この広い世界に一人いても、多分誰かを想っていられるなら生きていける。
実際に生きている人間でも生きていた人間でもキャラでも夢の中の人物でもなんでもいい。
誰かを想う事で生きられる。
決して当たり前じゃない事を当たり前だと、いやそんな事さえ考えることもなくいられた事をありがたいなって思った。
話したいな。
人の声が聞きたい。
ありがとうって言いたい。
いやまあ、急にありがとうって意味不明だろうから。
心の中でもいいんだ。
とりあえず母ちゃんに、親父に、中田と佐藤に。
結衣ちゃんに明日美ちゃんに杏子ちゃんに桜子ちゃんに。
バイト先の店長に、多田さんはじめ一緒に働いている人たちに。
中学時代の小学時代のそしてあんま覚えてないけど幼稚園の時の、友達に。
いや、今のオレをカタチ作っているすべての人に。
そしてこれから出会うかもしれないすべての人に。
ありがとう。
あなたが生きていてくれて想うことができて、オレは嬉しい。
そして、何より灰谷に。
もし、最悪、灰谷からこれ以上無いくらい拒絶されて、嫌悪されて、もう二度と会うことが叶わなくなったとしても、オレは、出会わなかった方がよかったなんて思わないだろう。
灰谷との思い出があればオレは生きていけるだろうから。
それくらいのものをあいつに、灰谷にもらったから。
あいつと出会わなかったらオレのこれまでの人生はどんなにつまらなかっただろう。
オレも灰谷に何かあげられているのかな。
あいつも同じように思っていてくれたなら嬉しいんだけど。
オレと出会ってくれてありがとう。
オレに想わせてくれてありがとう。
オレはリュックから三日ぶりにスマホを取り出し、電源を入れてみた。
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