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第137話 ただいま

「ただいま~」 オレは玄関のドアを開けて言った。 パタパタとスリッパの音を響かせて母ちゃんが奥から走って来た。 「おかえり(まこと)!」 当たり前じゃない当たり前、だった。 ありがとうをこめてオレは言った。 「ただいま」 なんだかテレくさかった。 「あら、あんた日に焼けたわね」 「え~?日焼け止め塗ってたんだけどな」 「ウソ。かなり焼けてるわよ」 「マジで?これ、アイスとプリン。おみやげ」 「あら、ありがとう」 「こんばんは」 オレと母ちゃんのやりとりを静かに見ていた灰谷が挨拶する。 「いらっしゃい灰谷くん。オムライス、すぐできるからね」 「ごちそうさまです」 「あ、でもその前に二人、お風呂入ってきたら」 「え?」 「沸かしてあるから」 「じゃあ灰谷、先入れよ」 「いや真島入れよ」 「いっしょに入ればいいじゃない」 !! オレと灰谷は顔を見合わせた。 「いやいや狭いし」 「あらあ、大丈夫よう。入れる入れる」 何てこと言い出すんだ母ちゃんは! 「じゃあオレ先、頂くわ」 灰谷が慌てて言った。 「ああ、そうしろ。タオルと着替え置いといてやるから」 「頼む」 「変な子達ねえ。昔はよく一緒に入ってたじゃないの」 首をひねって母ちゃんが台所へ消えた。 昔って小学生の頃だろそれ。 オレらいくつだと思ってるんだよ。 カラダだってデカイだろうが。 ん? 気がつけば灰谷が見つめていた。 「なんだよ」 「一緒に入るか?」 「な!」 「オマエ、顔赤くなってるぞ」 「ふざけんな、なってねえわ!」 その時、すっと灰谷がオレの耳元に顔を寄せた。 「まあ、オレは別にいいんだけどな。…一緒に入っても」 ささやくように言い捨てて灰谷が風呂場に消えた。 硬直……。 のち、心臓バクバク! うお~。 何だ今の何だ何だ~~。 チクショー、からかいやがって~。 きっとキスした仕返しだな。 灰谷のヤツ~~。 告ると立場が弱くなるな。 いや、ダメだ。 こんなのに負けちゃ。 どんどん攻めないと。 うん。 オレは決意を新たにした。

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