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第143話 帰って来てくれて
「あ、そう言えば、おいしいジャンボ餃子のお店見つけてさ」
「おっ。どこで?」
「場所はオレの頭の中にある。スマホ電源切ってたからさ」
真島と話しながら灰谷は思った。
母ちゃんの事、誰かに聞いてもらいたかった。
いや、誰かじゃない。
真島に。
考えてみれば真島に話す事じゃなかったのかもしれないけど。
色々絡んできちゃうから。
「もう心の食べログに★四つ、つけたね」
「ジャンボってどんくらい?」
「え?ちっちゃいバナナぐらい?それが五個プラス半チャーハン」
「デケエな。盛ってるだろ」
「盛ってねえわ。もうね、肉汁タップリ」
「ウマそー」
「ウマイよ。それで六百五十円。ただ食べた後はもう当分餃子は見たくないって感じになるけど」
「今度行こうぜ」
「おう。あ、バイクで。バイクならすぐだわ」
「おう。行こうぜ」
真島はちゃんと聞いてくれた。
エライなって。
そのまんま、いつものオレで会えばいいって言ってくれた。
なんだか、真島の事がいつになくまぶしく見えた……。
「で、さ、紙だよ紙。あの部屋のトイレ入ったらさ、トレペがもう三センチくらいしかないわけよ」
「なんだよ突然」
「いや、もう誰かに言いたくて。急に腹が痛くなって飛びこんだらさ」
「ホントに危機一髪じゃん。んで、オマエどうしたの」
「オレは神に祈ったね。神様、紙ください。紙ぃ~」
真島は急に面白話をツッコんで来た。
「ないわけよ。天井付近の棚にも床にもさ」
「おう、マジで?」
「母ちゃーん。オレは心で叫んだね。でも、オレは一人。灰谷ああいう時どうしてんの?」
「オレ、オレは切らさないよトレペ。買い物するのオレだし在庫チェック常にしてるから」
「だよな。エライわ」
「当たり前なんだけどな」
「その、日々当たり前だと、当たり前だとも何とも感じてない、あるのが当然だと思ってた事がすべて、全然当たり前じゃないって、この夏気がついたよオレ」
バカ話に混じる真島の大事な気づきの話だった。
語る真島の顔はほんの少しだけ大人びて見えた。
ほんの少しだけ…な。
そうだ。
真島がいるのが当たり前。
それも当たり前じゃないんだ。
そうオレも気がついた。
「母ちゃん、オレにいつもトレペの在庫確認の存在を忘れさせてくれてありがとう。そして親父、働いてトレペ買ってくれてありがとう」
「トレペでお礼を言われても…。でも、成長したなマコ」
「マコ言うなケン」
「おーマコケンか」
「ケンマコじゃね?」
「マジハイに続く新たなネーミング」
「来ました~」
気づかせてくれてありがとう真島。
帰って来てくれて。
いやまあ、帰って来るだろうけど夏休み終わるし。
「んで、トレペどうしたの?」
「フフフフフ」
「オマエ……まさか……」
面と向かっては絶対言えねえけど。
その…とにかく……みんなの……オレの所に。
灰谷は心の中でつぶやいた。
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