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第144話 ありがとな。灰谷

久しぶりに灰谷と随分長い事、話しこんでしまった。 「もう寝ないと明日起きれねえな。真島、オマエ疲れたろ?」 「いや、オレは結構ダラダラしてたから」 「そっか。オレはもう、ファミレスで課題やんのに頭使って、オマエ探すのにチャリダッシュして。あー」 灰谷が布団の上に大の字になった。 「ワリぃ」 「ワリぃと思うんなら、課題ダッシュな」 「ん?ああ」 「まあ大体終わってるから、オマエはほぼ写すだけだけど。かなり量あるからな。手が死ぬぞ」 「うん。あ、オレ、一応サトナカにLINEしとくわ」 「おう」 オレはサトナカにLINEを送ると、改めて灰谷からのメッセージに目を通した。 「つうかこれなんだよ」 「何?」 「『月はキレイだ。ドッグはウマイ』って」 「ああ。あれ、やっぱ真島だろ?」 「あ?」 「公園のベンチでアメリカンドッグ食ってたらさ、誰かが空を見ろって話しかけてるなと思ってさ」 ズキュン。 「見上げたらキレイな月でさ。ドッグはウマイし。オマエはいねえし」 ハートを撃ち抜かれたオレはベッドに顔を伏せてバタ足をした。 「どした?」 「オマエ……電波か?」 「違えわ。このやり取り、うぜえ~」 「うぜえ言うな」 なんなのこのクール仮面ロマンチスト。 つうかホントに聞こえたの? 乙女ちゃん、こういうの弱いわ~。 画面をスクロールする。 バイク。 カッコいいなホンダジョーカー。 灰谷がオレの為に探してくれた。 バイト頑張って早くおカネ返さないとな。 一緒に走りたくなって、だっけ。 あ~なんか顔がニヤける。 「ってか灰谷、このメット」 「メット?ああ、中田の兄貴がプレゼントだってさ」 「マジで。兄貴カッコいい~」 「おう、会ったらお礼言えよ」 「うん」 画面をさらにスクロールする。 虹。 「灰谷」 「ん~?」 「虹な、オレも見たんだよ」 「そっか」 「スマホ電源切ってたから、写真撮れなかったけど」 「あ~あれ、虹ってさ、見慣れないから一瞬なんだかわかんなくね?」 「そうそう、これなんだっけって思うよな」 「うん。言葉が遅れて来るんだ」 「んで、誰かに見せたくなるよな」 「ああ。自分一人で見てるともったいない感じ」 感情が動いて、言葉ができる。 心に脳に留めておきたくて。 誰かに伝えたくて。 オレは画面をスクロールして戻す。 灰谷からのメッセージ。 『真島、会いてえ』。 真島、会いてえ……か。 オレの宝物だな。 オレ、灰谷にありがとうって言ったっけ。 言ったか……。 「灰……」 灰谷は眠っていた。 スースー小さな寝息を立てて。 オレは灰谷の寝顔を見つめる。 ガキの頃からずっと見続けてきた男前顔。 なんだか、夏の前より男っぽくなってる気がする……。 無防備だな、襲っちまうぞ。 いや、しないけど。 灰谷の隣りに、チャリの後ろの特等席に、戻って来られて本当に良かった。 「ありがとな。灰谷」 聞こえてないだろうけどオレは灰谷にささやいた。 すると、まるで返事を返すみたいに灰谷の口がポカリと開いた。 そして、ツツーとヨダレが……。 ククククク。 オレは笑いを噛み殺す。 ウケる。 こいつウケる。 マジウケる。 ガキの頃からこうだった。 この間抜けヅラを見続けられますように。 オレは小さく祈った。

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