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第150話 パスタで爆死

「つうか、みんな、手が止まってね?」 「お~」 「ワリぃ、オレ、トイレ」 オレは立ち上がる。 用を足しながら考える。 あの杏子ちゃんが……。 それにしても中田のやつ、男前。 達観さ加減ときたらハンパねえな。 なんでだろう。 燃える? まるで倦怠期の夫婦みたいな発想。 つうかオレ、告白したなんて言って良かったのか? 相手灰谷なのに。 中田辺りにすぐバレるんじゃね? なんかついつい……。 トイレから出ると灰谷と鉢合わせた。 「どした?」 「あ、小腹空いて」 「そういえばオレも。母ちゃ~ん」 「あ、節子買い物行くって、今、出て行った」 「そっか。なんかあるかな」 「そうだ真島、あのパスタ、作ってやろうか」 「え?ホント?うん」 台所に立つ灰谷。 見るの久々。 いや、焼き肉の時以来か。 「灰谷、驚いたな中田の話」 「ああ」 灰谷が水を入れた鍋を火にかける。 「杏子ちゃんがな~」 「うん」 「倦怠期ってあるのかな」 「ん~そこまで付き合ったことねえからわかんねえな」 「うん」 オレもそうだった。 灰谷が冷蔵庫から野菜を取り出す。 「真島、トマト缶、どこにあるかわかるか」 「トマト缶。どこかな」 オレは戸棚を開けて探す。 「あ、ゴメンな」 「何が」 「オレ、好きなやつに告ったとか言っちゃって」 「別にオレは……」 「まあ、オマエの名前出したわけじゃねえけどな」 「ああ」 「なんか、中田のあんな事言われちゃうと、なんだかさ」 「ああ」 「まあでも灰谷も母ちゃんの事、あんな感じであいつらに話せて良かったじゃん」 「おう」 「あ、あった。一個でいい?」 「おう」 「ほい」 麺を茹でている間に灰谷が野菜を刻む。 料理ができない明日美ちゃんに灰谷がすんげえ優しく包丁の使い方を教えていた事を思い出した。 「オレも手伝う」 「は?そんなやることねえよ?」 「なんか切るわ」 「いや、そんなに切るもんねえし」 「なんかあるだろ」 オレは手を洗い包丁を出した。 「んじゃあ、切りやすいナスでも切るか?」 「おう」 「こんぐらいの厚さな」 灰谷が何枚か切ってくれた。 「包丁はこう握って」 「うん」 「指切るなよ」 「わかってるよ」 ナス……。 う~ん。 刃物ちょっと怖い。 厚さ揃えるのがムズイ。 オレが悪戦苦闘している間に灰谷は玉ねぎを薄くスライスしてベーコン切ってニンニクも細かく刻んだ。 「あとは大葉だな」 「大葉ってどうやって切るの」 「まず茎を切って横半分に切るだろ。で、こうやって端から丸めて、こう」 「お~なるほど~」 丸めて切るのか。知らなかった。 灰谷手際いいな。 「ナスできた」 「お、サンキュー」 自分でやったほうが早いだろうにオレに手伝わせてくれる灰谷。 フライパンで野菜を炒め始めた。 「皿用意しといて」 「ほ~い」 オレは大皿と取り皿、フォークを四人分、お盆の上に用意する。 タイマーが鳴った。 「真島、麺、ザルに上げて」 「おう」 「したら、こっち入れて」 「ほ~い。うおっ湯気が」 灰谷がジャッジャッとフライパンをふるう。 「ジャカジャーン」 ナスとベーコンのトマトパスタが出来上がった。 「うまそう!メッチャうまそう!つうかウマい」 「まだ食ってねえじゃん」 「いや、ウマイ。絶対ウマイ。先に一口一口」 オレはフォークに巻きつけて口に入れる。 「おい、フライイング」 「うま~い。なんだこれ。メッチャうま。止まんねえ~」 オレは夢中になってほおばった。 「真島」 「ん?」 「口元、ついてんぞ」 灰谷がオレの口元についたトマトソースを中指でぬぐうとその指をペロリと舐めた。 その目、その指、その舌、その口。 ……エロい。 ズキューン。 オレ……死んだ……。 「オマエそれ持って先、上に上がって。オレ、飲み物持って行くわ」 「おう」 灰谷がいなくなった途端にオレは身悶えた。 なんなのあいつ。 なんなのあいつ。 あんな事した事今までなかったじゃん。 距離感距離感距離感~。 自分の事好きだって男にする事じゃねえから~。 なんなんだあいつ。 天然のたらしなの? 母ちゃんや女の子達の気持ちがわかった気がした。 つうかそれをオレに発動してどうするんだよ~。 しかも無意識で。 タチ悪いぞ。 乙女ちゃん爆死……。 フラフラになって二階に上がった。 「遅いよ真島、何してたの?無くなるよ」 え?皿の上のパスタはすでに残り少なかった。 「早いよオマエら。後はオレによこせ」 「なんだよ真島、オマエがモタモタしてっからだろ。何してたんだよ」 「あ~?なんもしてねえわ。もう~」 「まあまあ、今度はオマエだけに作ってやるから」 チュドーン。 助けて~。 乙女ちゃん、心臓が持たねえよ~。

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