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第149話 秘密
「あ~もう~飽きた~。飽きたよ中田~」
短期集中課題デーも二日目を迎えて、さすがにシンドくなって来た。
佐藤の言うとおりだった。
飽きた。
とにかく字を書くのに飽きた。
今日までに終わらせたい、いや、終わらせる、そんな気持ちで昨日、サトナカが帰った後も頑張って、なんとか半分近くは終わったけれど。
残り後半分……。
コレを今日中にやり切って明日一日空けるのは難しそうだった。
つうか、提出日までに間に合うかどうかも怪しい。
う~。オレも煮詰まっていた。
「んじゃあ、こういうのは?今まで隠してた秘密を一人一つずつ打ち明ける」
中田が言い出す。
「何それ?」
「お遊びだよ。つまんねえんだろ。おもしれえじゃん」
秘密……。
「ほいじゃあオレからね」
「中田早いって~」
「聞いちゃったら言わなきゃダメだぞ。つうか、オレらが知らなくて自分が秘密だと思ってりゃなんでもいいんだよ。実は童貞です、とかでもさ」
中田は佐藤の背中を叩いた。
「バッバカ」
「ああ、みんな知ってるから秘密じゃねえわな」
「もう~中田のイジメっ子」
「じゃあ、オレからな。あのな、杏子がさ、浮気してる」
!!
マジハイサトは固まった。
「え?まさか、あの杏子ちゃんが」
佐藤が言うと中田は涼しい顔で言った。
「それがホントなんだな。オレが夏休みバイトばっかしてただろ。その間、実家の食堂のお客さんと浮気してた。多分まだ続いてる」
「な…中田…オマエ……」
さすがの佐藤も二の句が継げなかったようだ。
オレもなんて言っていいかわからなかった。
「ほい、じゃあ次佐藤」
「…っておい。なんでそんなに軽いんだよ」
「あ~まあ。しょうがねえかなと」
「何それ?どういう事?」
中田は淡々と話し始めた。
「オレと杏子さ、長いじゃん。まあそういう時期もあるかなって。オレだけじゃなくて他の男に目を向ける時もあるかもなってさ」
「ふ、ふざけんな。中田を裏切ってそんな事。オレは杏子ちゃん許さねえぞ」
佐藤が拳を握った。
「佐藤、オマエが許さないとか関係ないじゃん。オレと杏子の問題だし」
「そうだけどよ」
ああ。そういう事なのかも、と少しだけ思う。
オレと灰谷が結衣ちゃん明日美ちゃんと別れた時、杏子ちゃんは何も言って来なかった。
杏子ちゃんの性格上、『女の子泣かせやがってマジーサティー』と一発食らってもおかしくないと思っていた。
中田が自分の所で止めてるんだと思ってたけど、さすがの杏子ちゃんも自分の事を棚上げにして、オレ達に色々言えなかったのかも知れない。
「まあさ、もう、実はハラワタ煮えくり返る思いもあるけど。他の男とヤッてんのかな、とか思うと。でも、燃えるのも確かなんだよね」
マジハイサトは黙りこんだ。
「ああ、そんな顔すんなオマエら。だから秘密だったんだけど」
「でも、ひでえよ、杏子ちゃん。中田もなんでそんなに淡々と言えるんだよ」
佐藤が言った。
「オレ別れる気ないから。オレにとってあんなイイ女いないし。あいつにとってオレみたいにイイ男もいないと思うからね。幼なじみ同士、お手てつないでお花畑を歩いてるだけってわけにもいかないじゃん。こういうのもあっていいんじゃないかと思って」
「中田……」
「まあ言ってみれば、オレの男が上がるチャンスでもあるじゃん」
中田は不敵に笑った。
「いゃあ~スッキリした。オレ、誰かに言いたかったんだわ」
「オ、オレ、好きなやつに告白した」
中田の秘密を聞いて、オレは思わず口走っていた。
「相手は言えねえけど。ずっと好きだったやつに告白した。これからは自分に正直になる。自分にウソはつかねえって決めた」
あ、言っちゃった。
さすがに灰谷の方はちょっと見れなかった。
「がんばれ真島」
「おう。オマエもがんばれ中田」
オレと中田はガシっと手を握りあった。
ハッと我に返ったような顔をして佐藤が言った。
「真島、相手誰だよ」
「だから言えねえって言ってんだろ」
「オレも知ってるやつ?」
「だから~言えねえって…」
「あ、知らないやつなら知らないって言うよな。そう言わないって事は知ってるやつか?」
佐藤は中々鋭い所を突いてきた。
ふう~。
灰谷が息を吐いた。
「うちの母ちゃん、結婚する」
「え?ホントに?」
「おう」
「つうかそれって別に秘密じゃなくねえ?」
佐藤がツッコんだ。
「相手、女だ」
・・・。
サトナカがポカーンとした。
まあ、そうなるよな。
「え?」
「え?」
「会社の後輩と同性婚するんだと」
灰谷はわかりやすく言った。
「え~!!何それ何それ」
一気に佐藤のテンションが上がった。
「ス、スゴイな、オマエの母ちゃん」
中田が控えめに言った。
「おお」
「スゲエな。スゲエな。でも、知らねえおっさんがお父さんになるより、キレイな……その人美人?灰谷」
「ああ。まあ」
「キレイなお父さん……ん?お父さんか?え?お母さんが二人?その方がいいじゃん」
「……佐藤、その発想はなかった」
「そうか?」
「まあでも、おめでたいじゃん。よかったな灰谷」
「まあな」
「あ~でも、そんなのブチこまれちまうとオレにはそういう秘密みたいなのないんだよ~」
佐藤が言い出す。
まあ、佐藤はそうだろうな、と思う。
秘密にできないタチ。
「ねえんならいいよ別に。無理やり探さなくても」
中田が言った。
「いやいや、みんなそこそこスゲエのをブチこんでんだからオレもなんか……う~ん」
佐藤は唸った。
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