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第152話 夏休み最後の日

そして……。 カラオケボックスに車で連行され、始まった長渕ナイト。 「♪死んじまいたいほどの 苦しみ悲しみ」 「剛~」 「剛~」 「♪そんなものの一つや二つ~」 「剛~」 「剛~」 予習した曲バッチリだった。 「♪勇次~」 「オイ!」 「♪あの時の~」 「オイ!」 「♪エネルギッシュなお前が」 「オイ!」 「♪欲しい~」 「オイ!オイ!オイオイ!」 オレたちは拳を振り上げる。 肩を組んで揺れて合唱する。 いつかは終わる。 いつかは終わる。 いつかは……。 いつかは……いつ? 興が乗った中田(兄)はマイクを離さず……気がつけば夜……。 前回と同じ、兄貴の声が枯れたところでやっと、やっとお開きになった。 中田(兄)はオレたち全員に小遣いをくれて言った。 「ガキども最高だったぞ。またよろしく頼むわ。つうことで次回は矢沢でそこんとこよろしく。シェギナベイベー」 ご機嫌で帰っていった。 ガックシ。 中田(兄)がいなくなった途端、カラオケボックスの前でオレ達は座りこんだ。 サトナカマジハイは戦った。 そう。 戦いきった。 義理を果たしたのだった。 「は……腹減った……」 佐藤が言った。 みんな同感だった。 あんなに焼き肉食べたのに。 体力消費ハンパなし。 オレ達はラーメン屋に飛びこむと黙々とラーメンをすすった。 時間的にプールはアウトだし、カラオケは……もういい。 明日は始業式で早いので家に帰るしかなかった。 ブラブラ歩きながらオレんちに向かう。 みんな荷物置きっぱなしだったから。 「疲れた~」 「ああ」 「暑いな~」 「おう」 怒涛の時間にオレたちは無口になっていた。 「なんかごめんな、ウチの兄貴が」 中田が言った。 「いや、元はと言えばオレがムリ言ってバイク探してもらったから」 灰谷が言った。 「いや、元々はと言えばオレがあんなナイトを提案したばかりに」 佐藤が言った。 「いや、オレが一人旅なんか行って課題バックレなければ」 オレが言った。 アハハハハ。 オレたちは力なく笑った。 「しかし暑っちいな~。プール行きたかったな」 佐藤の一言でオレはヒラめいた。 「泳ごうぜ」 「は?もう終わってるだろ」 「いや、いい所がある」 「こっちこっち」 オレはみんなを手招きする。 そこは灰谷とオレが通っていた中学校のプールだった。 高いフェンスにオレはよじ登る。 「真島、危ねえって」 「大丈夫だって」 灰谷が隣りを登ってきた。 中田も続いた。 「んもう~」 渋々佐藤も続いた。 「一番上有刺鉄線あるから気をつけろよ」 オレたちはなんとかフェンスを乗り越えた。 あの辺にねえかなあ~。 オレは配電盤を探す。 ラッキーな事にカギは掛かっていなかった。 パチン。パチン。 スイッチを上げると、照明がついてプールが照らし出された。 二十五メートルプールが青く光っていた。 「うお~」 テンションの上がった佐藤がTシャツとジーパンを脱ぎ捨てて真っ先に飛びこんだ。 水から顔を出して笑う。 「最高~!フー!」 佐藤に続けとばかりにオレも服を脱ぎ捨てると助走をつけて、えいやっと飛んだ。 ふわりと浮いて水の中にジャポーン。 水の中気持ちイイ~。 そのままスイスイ泳いで佐藤とハイタッチした。 中田が自慢の細マッチョを見せびらかすように謎のポージングをして飛びこんだ。 泳いで来た中田ともハイタッチする。 灰谷はと見れば脱いだ服をきちんと折りたたんで水のかからない脇に置いている所だった。 A型……。 そして、行きまーすとでいうように右手を高く上げると飛びこんだ。 プールの真ん中に集まったオレたちは輪になって肩を組み笑った。 「サトナカマジハイ。イエーイ」 バシャッ。 オレは佐藤に水をかける。 「やめろ真島」 「オラ、佐藤」 プールの中で大ハシャギ。 オレ達はまるで小学生みたいに暴れまくった。 中田が佐藤のパンツを脱がしてプールサイドに投げる。 佐藤が前を押さえながらケツ丸出しで取りに行く。 それを見てゲラゲラ笑った。 さんざん遊び疲れてオレたちは四人並んでプカプカ浮いていた。 空にはチカチカと星、そして月。 カラダに水が心地良い。 このまま眠っちゃいたいぐらいだった。 「あ~なんか楽しいな」 佐藤が言った。 そう、ホント、楽しかった。 みんなそう思っているのがわかった。 オレ達はしばらくそうしてプカプカと浮かんでいた。 家の前でサトナカハイを見送る。 「ホントに途中まで送って行かなくていいの?交差点の所まで行くぜオレ」 「いいって。真島が一番寝てないだろ」 「いやでも、オレのせいでみんな……」 「気にすんな真島。オレたちの仲だろ」 「中田」 「そうよダーリン。明日からタカユキしてくれればいいわ」 「佐藤…。でもケツは掘らせないわよ」 「掘るか!あ……」 「なんだよ佐藤」 「いやあ~あのな、真島、一つ聞いていい?」 モジモジしながら佐藤が言った。 「いいよ。何?」 「あのさ……あのね、ケツってイイの?」 「佐藤~」 灰谷がヘッドロックした。 「イタイ。イタイ。灰谷ギブギブ」 「オマエ~」 「あ~いいよ。いいから灰谷。離してやれよ」 ゲフゲフゲフ。 佐藤が咳きこんだ。 灰谷、力強すぎ。 「佐藤、そういうデリケートな事はさ。面と向かって聞いちゃダメ」 中田が佐藤を諭す。 「いやあ~単純な興味だって~」 「オマエなー」 灰谷がまた締めようとするから佐藤がオレの後ろに隠れた。 「いいっていいって」 オレは佐藤の耳に小さな声でささやく。 「メッチャ・イイ」 佐藤が鼻を手で覆った。 「真島、鼻血ブー」 「お?なんだ?佐藤だけズルいわ」 「何?中田も聞きたいの?いいよ」 オレは中田を手招きすると、ささやいた。 「未知の扉、開いちゃうぜ」 中田が自分の頬に手を当てて大きく口を開けた。 「キャー、真島くんったらヤらしい~」 「中田キモいわ」 「うるせえよ佐藤」 中田が佐藤にヘッドロック。 「イタイイタイ。灰谷は~?」 「は?オレはいいよ」 「なんでだよ。聞いとけよ」 「いいって」 「なんでだよ。聞いとけよ」 「中田までなんでだよ」 サトナカは灰谷を見てニヤニヤ笑った。 「灰谷ビビってる~」 「灰谷ビビってる~」 「ビビってねえわ」 「じゃあ聞けよ」 「いいよ」 「はい。灰谷ビビってる~」 「ビビってない」 「んじゃ、真島、どうぞ」 灰谷が憮然とした顔をしている。 オレは灰谷を手招きする。 灰谷は渋々といった感じでオレの口元に耳を寄せる。 オレは言った。 「オレの気持ちにオマエの気持ちが追いついたら、ヤろうぜケン」 灰谷が固まった。 「あ、灰谷が固まってる」 「何言ったんだよ真島」 「別に~オマエらと同じだよ」 「マジで~?」 「んじゃ真島、明日いつもの時間な!」 灰谷が突然デカイ声で言った。 「ああ。つーか声デケエし」 「つうか灰谷、なんでそんなに怒ってんの?」 「はあ~佐藤、怒ってねえわ!」 「灰谷くん、純情ね」 「はあ~中田、純情じゃねえわ!」 怒ってるというより、テレてるな、灰谷。 オレにはわかった。 「んじゃみんな、また明日な」 「おう。おやすみダーリン」 「おやすみ真島~」 「真島、寝坊すんなよ!」 「おう」 「だから、なんで灰谷怒ってんの?」 「怒ってねえわ佐藤」 サトナカハイが帰って行った。 みんなでガツンとは遊べなかったけど。 楽しい夏休みの最後の一日だった。

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