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第3話

『αも間違える』  そうはっきりと云い切ったのは、高等部の生徒会長を務めている殿塚(とのづか)(かおる)、――弟の、親友だった。  誰よりも完璧に見えるαである彼が、「αだって完璧ではない」という内容の話を弟にするのを、望は少し離れた場所で天啓のように聞いていた。  友人だと思っていたクラスメイトたちに輪姦されそうになった直後のことだった。  絶望の淵に居た望は、自分に直接言われたわけでもないそれに、――確かにその時、救われたのだ。  それ以来、ずっとずっと密かに、……弟の親友で、なおかつ三つも年下である彼を想ってきた。  報われない想いだと知っていた。同性のα同士が結ばれることは、ありえない。  αは同じαに対し、性的欲求が乏しい……というのが定説だ。  αが性的魅力を感じるのはΩである。それが世の中の常識だった。  異端である自分は弟の親友に恋慕を抱き、誰よりもその近くに()ることを許されている弟に嫉妬した。  羨ましかった。妬ましかった。…それ以上に憧れた。  弟とその親友である彼との絆は強固で、そこに入り込む余地など欠片もなかった。  それでも、彼らはα同士だから……番にだけはなれないのだと、そう思っていたのに……。恋の芽生えから約一年後、その思い込みは覆される。――弟はΩだったのだ。 『ねぇ…、あんたの弟、Ωだよね』  家族以外に――彼さえも知らないその秘密を僕に囁いたのは、弟たちと同級生の年下の男。  弟の親友…彼に、ほんの少しだけ似たα。  見目麗しく、社交的で、ほうぼうで浮名を流す遊び人だった神代が、どこでそれを知り、なぜ自分に言ってきたのか、彼が明かすことはなかった。 『俺は他の人間より鼻がきくんだよね』  そう笑って軽くはぐらかされた。  最初は「そんなはずはない」と(とぼ)けたものの、弟の親友にバラすと言われ、元々しらを切るのが苦手な望は誤魔化し切れずにボロを出し、終いには誰にも言わないでくれと神代に頼み込む結果になった。――どんなに誤魔化しても、弟がΩであることは事実だ。噂話として広められでもしたら、真実は遅かれ早かれ(あば)かれる。  口止めの条件は、……神代のセフレになることだった。  弟は親友と約束をしていた。  それは弟にとって、大切な約束だった。  弟は親友の前ではαでありたいと願っていた。  ――叶えさせてあげたかった。他の誰にもそれを邪魔して欲しくなかった。  だから……、  望は、弟と想い人のために、その条件を呑んだ。……吞んで、しまった。  こうして、自分と神代との秘密の関係ははじまった。

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