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第2話

『αのくせに』  彼が一貫して望に使う言葉だ。  倒錯が彼を(たかぶ)らせるのだろう。  本来はありえないはず情交は、そんな言葉で自らを煽らなければ、きっと彼を昂らせることもできないのだ。  そこに多少なりとも彼の加虐的性癖が加味されているのだとしても、そう的外れな考えではないと思う。  この行為は、世の理、――条理に反している。  そんなに出来損ないのαが目障りなら、無視するなり放っておくなりすればいいのに……と何度も思ったけれど、彼は彼で鬱屈のぶつけ場所を欲していた。  自分はそういう意味で神代にとって都合の良い存在なのだと思う。  ――αの男は、Ωと違って妊娠の心配などしないで済むから。  しばらく入り口を(なぶ)っていた彼はそれに()いたのか、今度は一気に奥まで突き入れて来た。衝撃に喉から悲鳴が(ほとばし)る。 「ぃああああっ」 「……ホント、イイ声で啼くよねぇ、望さん。これでαっていうんだから、驚きだよ」 「っ…ぅ…ふぅ…っ…」  奥をがつがつ攻め立てられて、生理的な涙が零れ、シーツの上に散った。……言葉に傷ついて泣いているわけじゃない。自分にそう言い聞かせる。たとえ、自分しか騙せないのだとしても。 「また泣いてるし……、αのくせに弱虫なんだから」 「……ちが…、泣いて…な…」 「――ここ、噛んでもらいたい?」  望の言い訳を無視し、神代は背後からその細い首筋を熱い舌でぺろりと舐めた。  びくりと華奢な肩が跳ねる様子を上から見下ろす神代の瞳に、意地の悪い光が(ひらめ)く。 「会長さんに、噛んでもらいたい?」 「――」 「代わりに噛んであげようか? 俺が」  手の中に握りしめていたシーツを、望はますます強く…皺がもう元には戻らないほどに固く握る。 「(つがい)ごっこ。……そんな気に、なれるかもよ」  神代の犬歯が首筋を撫でた。 (――嗤ってる、僕を。僕の秘めた心を……)  牙が、揶揄(からか)うようにそこをくすぐる。 「会長さんのΩになりたい?」  必死で首を振って牙から逃れると、望の心を言葉で引き裂いた彼は満足げに笑って首筋から牙を引いた。

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