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第5話
過保護なすぐ上の兄が苦笑する姿が脳裏をよぎった。
『心配なんだよ。望は繊細にできてるから』
……こんなにチョロいから兄も自分を頼りなく思って構うのだ。
愛情の欠片もなく犯す相手にさえ、情を抱く。依存してしまう。
心が、――どうしようもなく、弱いから。
『碧 と違って?』
弟の名前を引き合いに出すと、兄の笑みに苦みが増した。
『…………おまえの碧コンプレックスも根深いなぁ。そんでもってあいつはあいつで鈍いからまったく気づいてないところがまた……おまえが不憫で、つい構っちゃうんだよなぁ』
兄が悪いわけでも弟が悪いわけでもない。
それでも自分の弱さを責任転嫁してしまいそうで……、兄の優しささえ穿って捉え、ますます自分の殻に引きこもった。
泣きながらコンビニを飛び出し、闇雲に歩いているうちに……普段はあまり足を向けない地区に入り込んでいた。
見るからにガラの悪い若者たちが前方から歩いて来るのに気づき、慌てて踵を返すとすぐ後ろにいた自分よりも大きな人影にぶつかってしまった。
「す、すみません!」
「…おっと、あぶねぇなぁ。あれ? あんた泣いてんの?」
……後ろにいたのもこれまたガラの悪そうな若者だった。
涙で汚れた顔を覗き込まれ、手で目元を隠す。
「……いえ、すみません、大丈夫です」
そんなやり取りをしている間に、同じようななりの男たちに囲まれていた。
「あの…通して…」
「えー? どーしよっかなぁ」
「どーするー?」
「泣いてるし、俺たちで慰めてあげよっか?」
弟たちと同じ年頃なのだろうが彼らからは暴力的な雰囲気が滲みだしていて、恐ろしさに体が震える。
「あ、あの…ぼく、急ぐので…」
なんとか囲いから脱することができないかと隙を伺うが、――逃げ道はすっかり塞がれていた。
「――あんた、Ωだろ」
誰かがそんなことを口にした。
――Ω。
また、……そう言われるのか。
こんな今会ったばかりの人間にまで!
「違う! 僕はαだ!」
「うっそだぁ」
「こんなα、見たことねぇよ」
「あーヤッてみりゃわかんじゃね?」
その言葉にぞっとした。
「おっそれ! いいな!」
「俺、まだΩとやったことねーんだよ」
「Ωってすげえイイらしいぜ?」
「俺たちみたいなβでもΩのエロいフェロモンって効くんだろ?」
「いやそれは都市伝説じゃねーの?」
周囲はにわかに活気づく。――この流れはマズい。
腕を掴まれた。路地を引きずられる。
「い…やだ! やだ…! 僕は…違う…!」
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