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第6話

 涙が零れ落ちた。  どうして自分はこうなんだろう。  どうしてこんなに弱いんだろう。  αならβである彼らよりも強いはずなのに。  こんなトラブルは簡単に切り抜けられて当然のはずなのに。  どんなに鍛えても、筋力はつかなかった。  お腹が壊れるほど牛乳を飲んでも身長は伸びなかった。  吐くほど肉を食べても体重は増えなかった。  努力はなに一つ実を結ばなかった。  Ωである弟に、すべて追い抜かされた。同じことをやっていても、それ以上のことをやっていても、弟の能力に及ばなかった。 「うぇ…うっ…ふ…ッ」  嗚咽が喉を突いたその時――。  望の腕を掴んでいた手が外れ、その持ち主が吹っ飛んだ。 「……汚い手で触れないでくれる? この人、俺のだから」  涙で歪んだ視界に、軽薄で意地悪なセフレが映り、泣いている望を呆れたように見下ろしていた。 「こんなところでなにしてるの。……まぁいいや、こいつら片付けてからあとでじっくり訊く」  その言葉通り、神代はものの数分で本当にそいつらを片付けてしまった。  望はあっけに取られて涙も引っ込んだ。  チャラい外見を裏切り、神代はびっくりするくらい腕っぷしが強かったのだ。  絡んできた若者たちをすべて地面にのした後、神代は望の手を引き歩き出した。 「どうしてあんな場所に? 慎重で臆病なあなたらしくもない」  歩きながら問い(ただ)され、望はしどろもどろに答える。 「た、たまたま…歩いていたら…あそこに居て…。そっちこそなんで……」 「言ったでしょ。鼻がきくって。嗅覚が普通の人間より発達しているの」  鼻が利く、というのはてっきり比喩だと思っていた。  利になりそうな情報に敏感な場合に使う表現でもあるからだ。 「――俺は特別なαだから」 「…そ…そうなんだ」  特別なα…と言われ、戸惑う。  誇らしげな言い方ではなかった。  どことなく声音に疎ましささえ含まれているように聞こえた。  ……いや、疎ましく思っているのは望に対してなのかもしれない。 「さっきは…ありがとう。助かったよ」  そう礼を言いながら、繋がれた手を離そうと試みた。 「……でもさ、助けてもらっておいてなんだけど、もう、僕に構わないでほしい」 「なにそれ」  こっちを流し見る眼差しが冷たい。やはり自分に気持ちはないのだと確信した。  さっき目にしたΩの少年にむける顔とは大違いだ。……ずきりと胸が性懲りもなく痛みを訴えた。

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