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第7話

「……好きな相手ができたんでしょ? さっき、見たよ。かわいい子だね。高等部の生徒会の子たち、みんなあの子に夢中だって、聞いた」  はっと鼻で嗤われる。ちっとも優しくない意地悪な笑い顔だけど、神代はそんな顔も似合ってしまう嫌味な美形である。 「それって、焼きもち?」 「違う!」  違う、ともう一度口の中でもごもご呟く。 「……ばかばかしくなっただけ」  みんなやっぱりΩがいいんだって、――わかっただけだ。  自分みたいな出来損ないのα、興味本位だとか遊びでしか相手にされないって、わかっただけだ。 「言えばいいよ。碧のこと、バラしたければバラせばいい」  神代の足が止まった。  望は構わず一気に続ける。 「――もう、僕は君の言いなりにはならない」  きっとあの二人なら、バラされたって二人でそれを乗り越えてみせるだろう。  たぶん、自分は弟を庇ううんぬんよりも、そんな二人の強い絆をこれ以上見せつけられたくなかっただけなのだ。耐えられなかっただけなのだ。碧がΩだと知ったら、きっと彼は碧を番にするだろうと思ったから。  ――どこまでも自分本位な想いでしかなかった。 「始祖の一族って知ってる?」 「え…?」  唐突に話が飛び、望は瞬きをする。 「αのはじまりとなった一族。俺はその末裔の直系で、しかも長男なわけ」 「……」 「でも、」  ふと神代が目を伏せ、唇を自嘲の形に歪める。 「俺は当主にはなれない。……どんなに努力しても、願っても。同世代にバカみたいに強く始祖の力を受け継いだヤツがいるから」  神代の手が逃れようとしていた望の手をぎゅっと掴む。絶対に離さないという意思がそこには篭っているようだった。 「努力が報われないのはツラい。較べる相手が自分よりもはるか上にいるのも苦しい。足掻いて、みっともなくそれでもしがみつくのは見苦しい。一つのものに執着するなんてバカバカしい。……ずっと、そう思ってきた」 「……」 「あなたのことも同じだ。ちょっと遊んで、すぐに捨ててやろうって、思ってた」  なのに、と彼は笑う。途方にくれた迷子の子供みたいな顔で。 「捨てられずに、――三年も経っちゃったよ」  握られた手が熱い。  そこから熱が伝播して、……顔にまで熱がのぼってきた。 「バラさないよ。はじめから、バラす気なんてなかった。もう…言いなりにならなくてもいい。従順なあなたも可哀想で好きだったけどね」 「……あ…の、それって…」  喉に言葉が絡んで問いかけはたどたどしくなった。 「始祖の血族、特に血の濃い直系のαには、特別な力があるんだ」 「――?」  ぐっと手を引かれ望の小柄な身体はすっぽりと神代の腕の中に収まる。  熱い手のひらが、(うなじ)にひたりと当てられた。 「相手がどんな『性』を持っていても、ここを噛むことで(つがい)にできる」  息を飲んで硬直した望に、神代は――獲物に牙を突き立てる瞬間の愉悦を口元にたたえながら甘やかに告げた。 「ねぇ望さん、俺だけのΩになってよ」  ――そうして望は、αの男に囚われ、自ら望んでΩとなった。 END

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