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甘いお話(主)

長らく番を探していた私の副官が、この度めでたく番を持った。 それはそれは、彼にとっては語るに涙であろうほどに、色々と苦労を掛けた自覚はある。 故に、『番を見つけた暁には休みをやる』と告げ、奴はその言葉通りに七日間の休みをとった。 そして、久しぶりに見たやつの顔は、はつらつとは遠いほどにぐったりとしたものだった。 「どうした。お前の番はそれほど激しいのか?」 「いや。かわいらしい。この上なくかわいい。かわいくて喰らいつくしてしまいたいが、まだ、幼すぎて加減が難しい。それが難儀だが嬉しいと思うくらいに、かわいい」 「……ああそうかよ」 確かに小柄だったなと、垣間見た姿を思い出す。 この大柄な狼が、あのヒト種を組み敷くとは、なかなかそそるものがある。 しかし、それにしては疲れていないか? 不思議に思ってその姿を眺めていたら、いきなり思いついたように、言い出した。 「主、誰か人を紹介してもらえないだろうか」 「あー? 珍しいな。どんなのがいいんだ?」 「……学び舎の教師」 「は?」 「子育てに精通したものがいい……ウチの連中が悪いわけではないんだが、手に負えない」 その言葉があまりに唐突で、思わずうなずいた。 子育て、ねえ? 理解不能の不思議な現象が目の前にあれば、興味を惹かれるのは当然だろう。 なので、ある日私は私を追う文官たちを撒いて、副官の屋敷に行った。 そして見たのは、まったくお同じ姿をした全きヒト種のふたりが、泣きながら喧嘩をしている場面。 「やだやだやだやだ!」 「だめー!だめなの!!」 「だって、グラナータのだもん!」 「違うでしょ?! ロボはサーレのなの! だから、これはダメ!」 「でも、グラナータが眠れないときに、作ってもらったんだもん! グラナータのなの!」 「違うの! ロボはサーレの番なの!」 あああん! あああん! 幼子が泣くように、手放しで泣きながら枕を取り合っている。 何だこの場面は。 「まあ。サーレ、グラナータ、そうやって泣いて騒いでしまっては、私にはなにがどうなっているのか、さっぱりわからないわ。ちゃんと教えて?」 私がここに派遣した、元学び舎の教師がころころと笑いながらふたりをなだめる。 ちらりと私を目で確認してから、ふたりを連れて奥へと入っていった。 だから、なんなんだ、これは。 見送っていると、私に気がついた副官とその部下が寄ってきた。 「あー……いい人を紹介してくれて、ありがとうございます」 「なんだあれは」 「成長です」 困ったように眉を下げるふたり。 よくよく聞けば、今まで抑えられていたものが爆発したように、オメガの双子は成長しているのだという。 主に心の部分が。 確かに、気持ち悪いほどに聞き分けの良い子どもだとは思っていたが、なるほど。 溜息をつきながらも、嬉しそうな部下たち。 「彼女が役に立ったならよかったよ。番に脂下がってないで、その分、働いてくれ」 デレてるんじゃない。 困ったふりして、かわいくて仕方がないという顔をしているふたり。 ふたりがふたりとも同じような状態で、こっちが気が抜けた。 わざわざ見に来るんじゃなかった。 そう思う私は、悪くないと思う。 ああもう、こいつら、プディングに溺れてしまうがいい!! <END>

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