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小さな花(ガート) 第2話
俺がアルファに分化したのは、十四歳の秋で、学び舎を終えて奉公に出る話がまとまった時だった。
ずっと一緒にいたいと駄々をこねていた双子のひとりが、俺の番だと、その時に知った。
なのに。
十五歳の春、俺の目の前で、双子は神殿に連れ去られてしまった。
ふたりを逃がしてくれと、母親たちに頼まれて、駆け回ったけれど、最後はどうすることもできなかった。
俺はぼこぼこに殴られて、地面に転がり、追うことができないように踏みつけられた。
意識を失って兵士に抱えられているビアンカと、転がっている俺を見て、グラナータが血を吐くような叫び声をあげた。
泣き叫びながら連れ去られる番に、俺は何もできないままで。
自分の力のなさが、情けなかった。
苦しかった。
ものすごく、息苦しい。
上手く息ができなくて、身体を動かしてみて、気がついた。
頭部が抑え込まれている。
「んぅ……」
心が熱くなる声がして、俺は止めていた息をついた。
そうだ。
取り戻せたんだ。
グラナータは、俺の番になった。
俺を包む甘い香り。
身体を繋げた後に、一緒のベッドで眠ったんだ。
腕の中で抱えていたはずのグラナータが、何故か今は俺の頭を抱え込んで眠っている。
そっと抜け出して、体勢を変えた。
「お前は昔から、そうやって眠るな……」
寝顔をのぞき込みながら、額にかかる髪を梳く。
子守をしていたころは、よく俺の尻尾を抱きかかえて眠っていた。
俺の服や枕がなくなっているときには、大抵、グラナータのベッドから見つかった。
俺が気がつく前から、お前もどこかで知っていたんだろ?
俺が館の護衛に潜り込んで、再会したとき、お前はすっかり俺を忘れてしまっていた。
けど、お前の俺に対する態度が、気になって仕方がないけど怖い、って感じで、まだ俺のグラナータだと確信した。
長く抑制剤を使って、いろんな衝動を抑えていたけれど、本当は連れ去りたかった。
藍の存在がなければ、俺はお前を連れて逃げていたと思う。
館でのお前は、幼すぎて異様に聞き分けの良すぎる子ども、だった。
グラナータほどではないけれど、藍もそうだ。
『無理やり連れてきたせいでしょう……どちらかは番の候補から引きはがしたとか。少しばかりその影響が出ていると思われます。オメガとしては有能そうですから、気長に教育していきましょう』
館の教育長が、そういっていた。
だから俺は、ふたりを連れ出せる時を待った。
分化前にどこかに娶わせるという話を聞いた時は焦ったけれど、間に合ってよかった。
「グラナータ……」
腕の付け根の小さな花。
かわいいかわいい、小さな、花。
「がーと?」
「愛しているよ」
「ん……?」
寝ぼけたグラナータが、俺を探す。
目で。
手で。
大丈夫ここにいるよ、と抱きかかえなおして、尾で頬を撫でた。
「がーと」
くふくふと寝ぼけたまま笑いをこぼして、また、目を閉じる。
俺の生きる支え。
腕の中のグラナータの体温。
これは俺の。
俺の、小さな花。
<END>
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