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小さな花(ガート) 第1話
幼いころの夢を見た。
俺が育ったのは、都から馬車でだと二日ほどかかる、街道筋の宿場町。
壁のある、ちょっとばかり大きい町の、中心から少し外れたところ。
ヒトに猫耳をつけような混合種の父と、ネコ種の尾だけをもつ母の間に、最後の子どもとして生まれた。
俺が生まれるころには、成人して独立をしていた兄姉もいるくらい。
いつも誰かがいて騒がしい家だった。
豊かではなくとも、楽しい家だった。
俺はネコの毛皮を持ち、ネコの耳があり、ネコの尾があって……つまり、ほとんどネコ種の全き獣人で、手だけが五本指のヒト種の形をしていた。
だから結局は混合種族。
母は俺の手を見て、泣いたのだという。
『だってさ、全きモノは神殿に取り上げられちゃうって、聞いたんだよ。支度金なんていらない。あたしは、あたしの子と、一緒にいたいんだもの』
混合種だと知って、母は泣いて喜んだ。
俺が十歳になる頃、しばらく空き家だった隣の家に、全きヒト種の双子を抱える一家が移ってきた。
母親もヒト種だそうで、父親は何かと大変そうだった。
ヒト種はそれほど丈夫ではない。
なので母は隣家の様子を気にかけていた。
そのころ双子は歩き始めたところで、目が離せない時期だったのもあるのだろう。
母は丁度良いと、俺に子守を押し付けた。
「ごめんなさいね、あなたも、したいことがあるでしょうに」
「いいのよぉ、困ったときはお互い様だからね。うちの子も学び舎に行ってるから、ずっとは無理だけど、人手がいるときにはいつでも貸すからね」
申し訳なさそうにする隣家の人の背を撫でながら、母がからからと笑っていた。
「それにしても、やわらかそうでかわいらしいわねえ。この子たちの名前は、なんというの? まあ、そっくりだこと!見分けられるかしら」
隣家の一室は柔らかな布が敷き詰められていて、双子たちが転んでも怪我をしないように、工夫されていた。
ひとりはなにやら積み木をせっせと並べていて、ひとりはじーっと俺を眺めていた。
「あっちが、ビアンカ。ここでお兄ちゃんの尻尾を気にしているのが、グラナータ」
「お兄ちゃんなんて、気をつかわないでいいのよぉ、この子はガートっていうの。うちの末っ子」
「あら。でも、他の小さい子は……」
「あれは孫……それにしても、そっくりねえ」
「あのね、グラナータはここに、お花のようなあざがあるの」
とうとう尻尾に手を出し始めたほうの子の、腕の内側。
脇の下というか、腕の付け根のところに、紅色の小さな花。
「あざ?」
「そう。ある方がグラナータ、ない方がビアンカ」
それが出会い。
グラナータが二歳で、俺が十歳。
俺とグラナータの始まり。
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