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地の塩(ロボ) 第6話
嵐のように、身体を合わせ熱を分け合った。
うなじをかんだ時の快感は、言葉では言い表せないもので、俺の細胞のすべてが番のためのものだと謳っているような気がした。
うなじをかんで、何度か熱を吐き出し、俺以上に吐き出させた。
まだ足りない。
俺は最後までこの身を収めたわけではない。
けれど、初めての経験に疲れ果ててしまった俺の番は、俺の腕の中で寝息をたてている。
くたりと番の身体から力が抜けた時は焦った。
快感が過ぎたのだと思い当って、そのまま抱き込んでしばらく眠った。
目が覚めても、腕の中に番がいる。
こんな幸せな目覚めは、初めてだ。
まだ足りないという俺のわがままなんて、ささいなこと。
それでも、願う。
「いつか、最後まで受け入れてくれ……」
額にかかる髪を撫でつけて、目元を舐めた。
「ぅん……?」
藍はくすぐったそうに、俺の胸元に顔をうずめてしまう。
そのしぐさはあどけないものなのに、俺の劣情を刺激する。
いやいや。
いやいやいやいや。
中心が力を取り戻すのは、仕方がないことだ。
やっと手に入れた番が、一糸纏わずに、ベッドの上で、俺の腕の中にいるんだ。
反応しない方が、おかしい。
「……いいよ?」
胸元から声がする。
俺に縋りついたまま、そっとうかがうように、藍が俺を見ていた。
「いい、とは?」
「いっぱい、愛して、いいのよ」
だって、番なのだもの。
俺の毛の中に埋めるように小さな声で、そっと藍が言う。
「お前を壊したくない。大切にしたいんだ」
「大丈夫。オメガは、受け入れるようにできているもの。番だもの。壊れない。それに、壊れてもいいの。番がそうしたいなら、それでいいのよ」
「ダメだ。言ったろう? 俺は、お前を大切にしたい……愛しているんだ」
花が咲くように、藍が笑った。
そして、甘えるように俺に言ったのだ。
「じゃあ、ね、あのね、愛し合うのは今でなくともいいから、お願いをしてもいい?」
「ん?」
「名前を、ちょうだい」
「名前?」
「そう。『藍』ではない、あなたの番の名前」
藍というのは、館での呼び名――記号のようなものなのだという。
個人を見分け目印にするために、色の名前で呼ばれていたのだと。
「だからホントは『藍』も『紅』も、名前ではないの。名前は、番にもらうものなの」
今頃、紅も、番に名をもらっているだろうと藍は言う。
自分にも名が欲しいと。
早く早くと可愛い顔でねだられて、頬が緩む。
可愛くてたまらなくて、もう手放せないと本気で思う。
この存在がないと、生きていくことなどできないだろう。
ああ。
そうか。
ならば。
「サーレ」
「サーレ?」
「そう。お前の名は、サーレだ」
なくては生きていけないもの。
「嬉しい……ありがとう、あなた」
何度か口の中で繰り返していたサーレは、真面目な顔をして、俺を見ていった。
「もう一つ、お願い。あなたの、名前を教えて? サーレの大切な番……あなたの名前は、なんというの?」
え?
俺の名前?
……確かに、名乗った記憶が、ない。
「名乗っていなかったか?」
「うん」
「すまない」
これが番。
ひかれあうもの。
名前を告げることも忘れて、その存在に夢中になってしまっていた。
「ロボ、だ。俺の名はロボという」
「ロボ……サーレの番……」
大好き愛してる。
そういってサーレは、俺の首に抱きついた。
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