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第3話

 駅から十五分程歩き、準備中の札が掛かった居酒屋の扉を開けると仕込み中の幼馴染が調理室から顔を覗かせた。  葵の表情を見て、結果の予想が付いたのだろう。調理室に引っ込むとホットミルクを持ってやってきた。 「取り合えずこれ飲んで落ち着いたら話せよ」  一口、二口と口を付け、カップの半分を空けたところで漸く葵は口を開く事が出来た。  雪路とのやり取りの一部始終を震える声で何とか説明し、そして謝った。 「ごめんな。竜ちゃんの名前勝手に使って」 「別にそれはいいけど、お前はいいのか?」 「良くはないけど、本当の事言って無理矢理病院に連れていかれたら嫌だし」 「あいつがお前相手にそこまでするか?」 「どうだろ……良く分からないよ。俺が発情期迎えてから、雪路は俺の事避けまくっていたし」 「そりゃあ……」 「多分、俺と番いたくなかったんだろうな……」  自分で言った言葉に傷付いて葵は思わず涙を零した。 「ごめん。俺ってば感傷的になっちゃって……」  袖口で必死に目元を拭う葵の背を竜はそっと撫でる。 「だとしても、あいつはお前を抱いて子供まで作ったんだ。キッチリ落とし前つけさせないと駄目だろ」 「いいんだ。俺、雪路の赤ちゃん貰えただけで幸せだから」  だからお願い内緒にしておいてと竜の手を握ると、納得いかない表情のまま竜は「分かった」と頷いた。

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