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第1話
「……何だ、ソレ」
「え? ワラビモチティー・きなこ風味。上村(うえむら)も飲む?」
「いらねぇ」
教科担当でも担任クラスの生徒でもないのに、何故か居座っている浅岡(あさおか)の差し出す紙パックに心底嫌そうな顔をする。
「サクラモチティーもあるよ?」
「いらねぇ。ってか、わざわざ茶にするな。喰え」
「えー……コレがいいのに」
邪険に扱う上村をモノともしないで、出した新たな紙パックをいそいそと仕舞って口を尖らせる。
「じゃあさ、上村作ってよ。家庭科の先生でしょ?」
「面倒くせぇ」
「そうだ、お花見しよう!」
「ぁあ?」
人の話をこれっぽっちも聞いていない生徒は、さも名案だとばかりに声を上げる。あまりの急展開に上村は窓の桟に預けた身体を起した。
紫煙を立ち上らせ、眼下に広がる桜並木を眺めて溢す。
「……花見、ねぇ」
チラホラと覗く三分咲きに、若干興味をそそられる。
「ね、ね? 決まり!! 行こう!!」
嬉々として立ち上がり手を叩いた音と、授業時間中とは思えないくらい激しく扉を開ける音が重なる。
「くぉらぁ、浅岡!! こんなトコに居やがってっ!!」
「っげ、山っち!?」
「あー……お疲れさまです、山下先生」
乱入した生徒指導の教師に声を掛けつつ、コッソリと煙草を隠す。
こちらまで指導されかねない。それでなくとも、元々素行はよろしくないのだ。
「じゃ、コイツ連れて行きますんで。行くぞ、浅岡!」
「えー……上村とイイコトしてたのに、山っちのヤボ!」
引き摺られていく背を眺めて、残されたジュースに気付く。
「……何の味だ?」
パッケージと浅岡の説明からも知ってはいたが、口の中に広がる摩訶不思議な味に首を傾げる。
仕方ない。
「作ってやるか」
紛い物しか知らない、憐れな生徒に。
春風駘蕩たる穏やかな日和、ネクタイ靡かせて満足そうに口角を上げた上村を、浅岡は知らない。
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