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四話【根拠(下)】~了~
まるで懇願するよう見上げたオレに対し、相田は答える。
「恋愛とは……どちらか片方だけが努力をするのは好ましくないらしい」
「どういうこと……?」
「そうだな……ふむ」
相田は悩むような素振りを見せると、何かが思い付いたらしく……一度、頷いた。
「恋愛の基礎であるキスを、君としてみたい」
「キ、キス……ッ!」
「嫌か?」
嫌なわけ、ない。
相田とキスができるなら、嬉しいに決まってる。
オレは相田から視線を逸らして、俯く。
「イヤ、じゃ……ない」
「なら、決まりだ」
ほんの少しだけ離れた、オレと相田の距離。
それでも、キスをするには離れすぎている。
どうしたらいいのか分からず俯いていると、相田の声が頭上から降ってきた。
「半歩でいい。自分に近付いて欲しい」
「……半歩?」
「あぁ」
どうして、一歩じゃないんだろう。オレが一歩近付けば、キスできる距離にはなる。
相田の顔を見上げると、相田はもう一度メガネを指で押し上げた。
「自分も半歩、君に近付く」
そう言われて、何となく相田の考えが分かった気がする。
きっとそれは、相田なりの努力なんだろう。
どちらか片方が一歩踏み込んだら、踏み込まなかった方は努力をしていない。だったら、二人で半歩ずつ近付けばいい……そういうことを、相田は言いたいんだ。
それはそれで、恥ずかしい……でも。
オレは、相田に向けて半歩……踏み込んだ。
そして相田の足も、オレに向かって半歩踏み込まれる。
「傘野……顔を、上げて欲しい」
「……っ」
ギュッと目を閉じて、相田の方を見上げた。
「……いいな」
相田が一言呟くと、唇に……柔らかくて、温かいものが触れる。
そのぬくもりは一瞬で離れて、目を開けると……満足そうに笑っている相田と、目が合った。
「次は相合傘でもしてみようか」
相田の声が、妙に弾んでいる。
本当に、こんなので好きかどうかの証明になるのか……オレには分からない。
――だけど。
オレは自分の胸に手を当てる。
痛いくらいにドキドキしている心臓が、相田の納得する根拠ならいいのにな……そう、思えた。
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