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四話【根拠(中)】
カバーの下にあった表紙はピンクとか白とか黄色とか……いかにも女子が好きそうな字体と色使い。相田が読むようには、思えない表紙だ。
「こういった本には、恋愛とは何なのか……それについて、共通した表現があった」
「な、に……それ?」
「例えば『気付けば相手のことを目で追っている』……だ」
相田が呟いた言葉は、相田に恋をしているオレにも当てはまることだった。
「他にも『気付けば相手のことばかり考えている』や『相手が自分以外の誰かと楽しそうにしていると、面白くない』や……そんなことが書いてあったな」
全部、オレに当てはまる。
相田なら絶対言わなさそうな言葉が、スルスルと出てきて……ポップな表紙の恋愛小説を相田が本当に読んでいるんだと、認めるしかない。
しかも……恋愛を、知る為に。
「君に告白されたあの日から、自分は君のことばかり考えていた」
相田の言葉に、心臓がとくんと跳ねた。
「目で追ってしまったし、君がクラスの誰かと話していると……妙に、落ち着かなかった」
そこまで言って、相田が立ち上がる。
オレよりも背の高い相田に、突然見下ろされて……落ち着かない。
「何故顔を赤くしている?」
「そ、そんなの……相田が――」
「自分のせい? ……ふふっ」
「な……何だよ……ッ」
いつも無表情な相田が、突然……口元を緩めた。
「自分のせいで、君が表情を変えるのは……見ていて、気分がいいな」
目を細めて、口角を小さく上げて……相田はオレを、見下ろしている。
まるで、好きな子を見ているような……そんな、優しい表情で。
「な、何言って――」
「先に言っておくが、まだ自分は恋愛というものを把握できていない」
親指と中指でメガネを押し上げて、相田はオレに語る。
「君が自分を『好き』と言う根拠も提示されていない今、君との関係性を進展させるのは得策だとは思えない。これが、自分の考えだ」
「……それって、オレとは付き合えないってこと?」
「現段階では、そういうことになる」
こんなにいい雰囲気なのに……オレが相田を好きだって証明できないから、相田がオレをどう思っているかちゃんと分かっていないから……付き合えない?
オレは相田を見上げた。
「じゃあ……どうしたら、いい?」
まだ、相田が納得するような根拠が見つかっていない。
相田がオレを見てくれて、オレのことを考えてくれていたのは、嬉しい。
どうしたら相田はオレを好きって思うのか……バカなオレは、相田の求める正しい答えが分からない。
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