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四話【根拠(上)】
そして、気付けば教室にはオレと相田しかいなくなっていたようだ。気まずい沈黙が、教室中に広がる。
先に沈黙を破ったのは、相田だった。
「彼女は、一本しかない傘を自分に貸した後……どうやって帰るつもりだったのだろうか」
顎に手を添えて、相田は真剣に考えだす。
……いや、いやいやいや!
「相合傘のお誘いだろッ!」
思わず立ち上がり、真剣に悩んでいる相田を指さす。
相田はオレの方を振り返り、眉間にシワを寄せた。
「…………相合傘? 何故、自分と彼女が?」
「どう見たって相田に惚れてただろッ!」
「そうだったのか?」
「そうだよッ!」
女子の真意が全く分かっていなかった相田は、怪訝そうな顔をしている。
頭はいい筈なのに、全然女子の気持ちを分かっていない……本当に、人の恋心が何なのか分かっていないらしい。
「相田、今日一日ですっげーモテモテになってただろッ!」
「やけに女子が寄ってくるなとは思っていたが、そういうことだったのか……」
「ウソだろ?」
女子が相田に寄っていた理由すら、知らなかったらしい。興味深そうに、相田は何度も頷いた。
「やはり、恋愛は奥が深いな……この一ヶ月、自分なりに独学で知識を深めていたつもりだったが、未熟だったようだ」
「恋愛って独学とかそういうものじゃ――って、え……?」
相田の呟きに、オレは固まる。
相田は真剣な表情のまま、固まっているオレを見た。
「何だ? 君が自分に想いを告げて、一ヶ月だろう?」
さも当然といった様子で、相田は語りかけてくる。
確かに、オレが相田に告白して一ヶ月経ったけど……それって、つまり。
「オレの告白……憶えてるの?」
「何を言っている……当たり前だろう」
相田が、怪訝そうに眉を寄せた。
予想外の返事に、オレは慌てて相田の席に近寄る。
「ウ、ウソだろ? だって、オレが挨拶とかしても全然平気そうだったじゃんか!」
「挨拶くらい、以前から交わしていただろう」
「教室で二人きりになっても、気にしてなさそうだったし!」
「二人だからといって、何かが起こるわけでもないからな」
淡々と答える相田は、相変わらず難しい表情をしていた。オレの言っている意味が、分かっていないんだろう。
「オ、オレが話しかけても……本ばっかり、読んでたくせに……!」
絞り出した文句に、相田は目を丸くした。
机の上に置いてあるカバーの掛けられた一冊の本を指で撫でると、相田はオレから視線を外して本を見る。
「参考資料として、恋愛小説というものを読んでいたのだが……それの、何が不満なんだ?」
「……恋愛小説? 相田が?」
「あぁ」
オレの問いに頷いてから、相田は本に掛けられているカバーを外した。
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