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三話【放課後(下)】
相田は椅子に座ったまま、本から視線を上げて女子を見る。
「……言葉の意味が、分からないのだが」
「え、えっとね、つまり……その……っ」
「?」
女子が口を開いては閉じて、また口を開く。相田はその様子を、怪訝そうに見上げている。
相田は気付いていないようだけど、オレには分かってしまった。
(相合傘……!)
女子は『一緒に帰ろう』……そう、相田を誘おうとしているのだ。
相田は鈍いのか、全然分かっていなさそうに見える。
女子がもし、相田を誘ったら……どう答えるんだろう。
「相田君、私と――」
「相田ッ!」
女子が口を開くと同時に、その言葉を遮るように発せられた大きな声が、教室に響く。
――それは紛れもない……オレの声だ。
女子と相田が、オレの方に視線を向ける。
「相田、は……オレと……そう、オレと帰る約束、してるから!」
咄嗟に出てきた言葉に、相田も女子も驚いたような顔をしているが……一番驚いているのは、オレだ。
(何言ってるんだよオレッ!)
オレと相田が、一緒に帰る約束? 今まで一回もしたことないだろ! そもそも、今日は一回も話してないし!
目を丸くしている女子を見て、オレは背中に冷や汗が伝ったのを感じていた。
――しかし、予想外の言葉が返ってくる。
「……あぁ、その通りだ」
相田はオレから視線を外し、前に立っている女子を見上げた。
「すまない、先に言うべきだったな。本当は、彼の帰り支度を待っていた」
その言葉に、女子ではなくオレが目を丸くする。
相田とオレは、一緒に帰る約束なんかしていない。言い出しっぺのオレが言うのも変だけど、実際そうなんだ。
なのに相田は、オレの言葉に乗っかってくれた。
(……何で?)
相田の言葉に茫然としているオレを気にせず、女子は残念そうな顔をする。
「そ、そうだったんだ。ごめんね、変なこと言っちゃって」
「君は悪くない。自分の方こそ、すまなかった」
「ううん……そ、それじゃあねっ」
女子は相田に手を振って、自分の席から鞄を取る。
一瞬だけオレと目が合い、あろうことかオレにまで手を振って、女子は教室から出て行った。
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